若!万歳!:藤原伊織「てのひらの闇」


引越しの際に荷物を減らしたい妹からもらった「てのひらの闇」by藤原伊織。

妹が引っ越して半年過ぎたくらいに手に取り読み終わりました。
今まで読んだ藤原伊織の本(といっても3冊だけですが)を読んで思ったけれど、彼の作品は定石ってものがある気がする。

すなわち、主人公が中年の独り身の男で(それは離婚したり死別したら、はたまた未婚だったりもするけど)、華々しい過去を持っているが今は落ちぶれている。そして昔関わった女の影がちらつくことで(そして絶対美人)、事件が起こる。ついでに現在でも美人な女が、主人公の周りにいるが、主人公はなびかない。

とこんな風にお話がすすめば藤原伊織作品に。
(といっても3冊しか読んでませんが!)

今回の主人公は飲料会社宣伝部課長の堀江。
彼は大学中途者であり、大企業に珍しい中途採用者である。
それはというのも、現・会長である石崎に、ある出来事をきっかけに出会い、見込まれたのだった。
かつては大企業だったその会社も、いまや不況のあおりを受けて、青息吐息になる。リストラも徐々に始まり、堀江は自主退職を願い出て、あと1ヶ月のサラリーマン生活となった。

そんな折に部長とともに会長に呼ばれる。
そこで見させられたのは、ある大学教授がベランダから落ちた子供を間一髪で助けるというビデオだった。
なんでも石崎が撮ったらしい。そしてそれを、自社で売り出しているスポーツドリンクのCMで使ってほしいとのことだった。

堀江が自分のオフィスに戻って調べると、それは会長が撮ったものではなくて、CG合成で作られていたものだと分かる。そんなわけでCMには使えません、と会長に伝えたその夜に会長は自殺してしまう。

その自殺の裏には何があったのか・・・?
なんのためにCG加工したビデオを会長が渡してきて、CMに使うよう打診してきたのか?
そもそもそのビデオはどこから出てきたのか?

ということを、体調不良のなか、堀江は探っていくのです。
既読の3冊の中、実は堀江が一番かっこいいと思ってしまいました。
ていうのは、彼は実はやくざの息子だったのです!しかも剣道の凄腕。
なんというか、「実は○○だった」という設定にひたすら弱いワタクシ。昔のお目付け役(?)に偶然出会った時に;

 彼は私のすぐそばまでやってきた。必要以上の時間をかけ、靴を脱いだ。そして周囲に聞こえない低い声でつぶやいた。
「若」
「若、という人物はおりません」と私はいった。
「失礼いたしました。雅之さん。お久しぶりで」
「ああ」と私は答えた。
 二人とも相手から視線はそらしていた。
「お元気でいなさるようで、ようございました。いまは人の目がやっかいですが、いずれ、ご連絡さしあげとうございます」
「いずれはないよ」
「・・・・・・さようですね。心得ておるつもりが、懐かしさでつい口がすべりました。ご容赦のほど」
 それ以上、口を開くことなく、彼は屋敷の奥に歩みさっていった。

(p143-144)

っていうやりとりなんて、「っくぅぅぅうううう~~~」という感じですよ。
しかも相手が大きな組のやくざの親分ってのがまたいい。
それはともかく、話の流れをざっと言ってしまうと、やくざ絡みの話でした。
会長はある女性の出自の秘密を守るために、弁護士の売名行為につながるビデオをCMに使わざるを得なくなったのだった。
その女性ともども、弁護士もやくざにつながっており、弁護士は近々政治に進出しようとしていたのだ。

最後はどう落とし前がつくのかと思いきや、ここで主人公のお目付け役登場。
「若、後はわたしたちにお任せください」とばかりに、後始末を全部引き受けて、一件落着。
主人公はもとの世界に戻り、リストラされて終わり。
若のお戯れのハードボイルドごっこもこうやって終わったのでした。

というと、なんか馬鹿にしてるみたいだけど、こういう感じが好きだったからしょうがない。
どうやらこれには続きがあるみたい(しかも遺稿)なので、ぜひとも読んでみたいです。

<藤原伊織 「てのひらの闇」 2002年 文言春秋>

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