グッチー先生も偉くなったもんだ:海堂尊 「ジェネラル・ルージュの凱旋」


図書館にてありえない程長蛇の予約列に名を連ねて幾年か。巡りにめぐって忘れた頃にやってきた「ジェネラル・ルージュの凱旋」。

読んでみれば前作の「ナイチンゲールの沈黙」と対になっているような作品で、同時進行で起こった事件の話だった。こちとら「ナイチンゲールの沈黙」を読んだのもずっと昔、すっかり忘れていて「覚えてたらもっと面白かっただろうな~」と悔やまれること度々。
と嘆いてもせんなきこと。

今回の話の中心となっているのは救命救急センター部長の速水。
前作で登場したときにかっこいい!と思ってだんだよなぁ~(確か)と思いながら読んでいたが、うん、かっこいいよ!!!

話の発端はリスクマネジメント委員会の会長になってしまった、愚痴外来の万年講師の田口のもとへ一通の内部告発文書が届けられる。そこには

『救命救急センター速水部長は、医療代理店メディカル・アソシエイツと癒着している。
VM社の心臓カーテルの使用頻度を調べてみろ。ICUの花房師長は共犯だ』

と書かれていた
高階病院長に持っていくと、リスクマネジメント委員会の敵、ついでに田口を敵対視しているエシックス・コミティ(倫理審査会)に持っていけ、と言う。

このエシックス・コミティの沼田を筆頭全員が嫌なやつで、ねちねちと人の揚げ足ばかり取り、毎週というくらい議会を開催しているのに、決まった案件は0。
そんなところへ持っていったものだから、またもや田口の災難は始まる。
またもや白鳥が出てきて、すべてを片付けていくのかと思いきや、とんでもない。さすが速水。いや、ジェネラル・ルージュ。
むかつくエシックス・コミティをめったうちしていく様子をとくとごらんあれ。

「沼田さん、これ以上議論の必要があるか?倫理倫理って、季節外れの鈴虫みたいに鳴くんじゃねえよ。米国かぶれも大概にしな。なんでも米国に尻尾ふってりゃいいってもんじゃない」
…(中略)…
「私はハーバードの標準<スタンダード>に従っている」
 速水はゆっくり首を振る。
「語るに落ちたな、沼田さん。あんたの言う倫理ってヤツはハーバードのドメスティック・ルールであって、世界的標準<グローバル・スタンダード>には程遠い。カントだ、ヘーゲルだ、と西洋かぶれのことばかり言ってないで、たまには大乗仏教仏典や諸子百家の叢書でも読んでみやがれ」
 蒼白になった沼田に、速見は短く、そして鋭くとどめを刺す。
「俺ならエシックスの本家、米国を支配している大統領に老子<タオ>の考えをぶちこんでやるがね。それこそ倫理が求める世界平和達成のためには一番の早道さ」

(p264)

「何でもかんでも倫理、倫理とわめきたてるのは、やめにしてもらいたい。俺を裁くことは誰にもできない。ただひとつの存在を除いて、な」
「それは、誰ですか?」
 沼田のかろうじて口にした最後の言葉に対し、速水は昂然と答える。
「俺を裁くことができるのは、俺の目の前に横たわる、患者という現実だけだ」
 沼田が営々と築き上げてきたエシックスという硝子の宮殿、桜宮の聖域<サンクチュアリ>は、血まみれ将軍<ジェネラル・ルージュ>の迫撃砲の一撃で粉々に砕け散った。

(p277)

う~かっこいい。
あまりに高潔で、唯我独尊で、組織をまったく無視して爆走して、でも一部には尊敬されていて、それでいて最後にチュパチャップスがために田口に負けるところが・・・もうかっこいいですね。特に、血まみれの白衣を翻して、エシックスの査問会に入ってきた時にはもお~

とふざけたことばかり書いてしまったけれど、そんな内容ばかりでなく、病院の赤字経営を再建しようとする事務局と、人命を助けようとする医者の奮闘が描かれていた。さすが、現役勤務医。そういうところが臨場感あふれているだけではなく、ともすれば速水に拍手喝采で終わってしまうところを、そうだったら組織は回らないんだぞ、というところも釘刺しているのがよかった。
このシリーズでもっと読んでいきたいなぁ。でも速水さんには戻ってきててほしいなぁ。

<海堂尊 「ジェネラル・ルージュの凱旋」 2007年 宝島社>

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