強盗に投げつけられてもまりん(犬)が起きなかったのはおかしい!:加藤実秋「インディゴの夜 チョコレートビースト」


シリーズ第一弾があまりに面白く、いそいそ予約して借りてきた(ここで買わないところがケチくさいな自分)「インディゴの夜 チョコレートビースト」。

あの軽めのタッチでスピーディーに展開するのにハマりました。
普段、短編を嫌い嫌い言ってるくせに、このシリーズに関しては短編でちょうどいい。このスピーディーさと軽さが短編の醍醐味を最大限に表していると思う。逆に言ったら、短編でなく長編だったら、この作品をここまで魅力的にしなかったとも思う。
さて今回の作品は次の通り(ネタバレあり);


「返報者」

ホストクラブの帝王と呼ばれる、<エルドラド>の空也が晶のもとへある調査依頼にやってくる。
それは現在連続して起きているホスト襲撃事件。空也のところにまだ被害はないものの、空也には懸念事項があった。
というのは、空也が目をかけてやっている新人を、妬んだ先輩ホスト達がそいつをいじめると、必ず報復があるという。そしてその襲撃されたホストたちというのは、雑誌の企画で今売れっ子のホストたちが一堂に会した時、その新人ホスト樹をいじめていたらしいのだ。
といっても何も根拠がない。だからといって警察には言えない。
そんなわけで空也に借りがあるに調査のおはちが回ってきたのだった。
私の予想としては、樹は多重人格で(一瞬別人のような顔したりする描写があったから)、もう一つの人格が報復しているのかと思いきや、全然ちがった・・・
てかもっと現実的でした。こんな予想してるのが恥ずかしいくらい・・・ふふふ

「マイノリティ/マジョリティ」

晶とを共同経営している塩谷の、表の仕事(出版社の編集者)での後輩が失踪してしまう。晶も知っている人だったこともあって、その人を探すことになる。
そこには雑誌を作るにあたっての水増し請求問題がからんでいた!!というお話。
その後輩のPCのパスワードがGreendayの”Minority”のギターコードだった、というエピソードがあったが、ちょうどカラオケで”Minority”を歌った直後だったので「おおお~」と勝手に盛り上がってしまいました(そんなんどうでもいいでしょうが)。

「チョコレートビースト」

旅行帰りのなぎさママに偶然会って、無理やりなぎさママの店に連れてこられた晶。
するとそこには強盗がいた・・・。
しょっぱなから!という感じだったけど、なぎさママの剛腕によってあっさり強盗は逃げる。
が!それでは腹の虫が収まらぬ晶は、(やらなくていいのに)なぎさママのバッグを手に取り、強盗の背中めがけて投げる。的中したのはいいが、強盗に(当たり前ながら)そのバッグを持っていかれてしまう。
ま、いっか、と思ったのも束の間、そのバッグの中には、ママの愛犬が入っていたのだ!!
怒り狂うなぎさママ。もちろん晶たちは(連帯責任という名のもと皆)、その犬を探すことにしたのだった。
キーは晶がちらっとみたタトゥー。タトゥーだらけのホストKAZOOを頼りにその強盗軍団を探すのだった。

「真夜中のダーリン」

ホストの吉田吉男が倒れたと聞きつけて駆け付けた晶。
そこで吉田吉男の身の上を聞くことになるのだが、曰く、両親に先立たれて親戚中をたらいまわし。バドミントンという生きがいを見つけたと思った途端、心臓の欠陥が見つかり、手術をすれば助かるがバドミントンはできなくなると告げられる。
残りの人生楽しもうじゃないか、ということで家出をして今に至るわけだったのだが、塩谷の「やり残したことはもうないのか?」という質問より、『第一回 ホスト選手権大会』に出場する流れになる。
なんとか決戦大会に進んだが、そこから妨害工作が始まる。しかも空也など有力候補が他にいるはずなのに吉田吉男だけ。
ま ふたを開けてみたらその大会は出来レースで・・・

と相変わらず、推理小説と区分していいのか甚だ疑問だけれども、一気に読めるこの面白さ。
面白さの一つに、服装の表現が挙げられる気がします。ホストの話だけあって(しかもクラブ風の)、服装の描写がしょっちゅう出てくるのですが、三十女である晶が冷静に表現しているのがおかしい。
描写といっても、渋谷などで「あるある!」という服装ばかりだが、晶のつっこみも「だよね!だよね!」というものなのは、私も若者でないからなのか・・・
例えば;

襟元を真っ赤なロングマフラーでぐるぐる巻きにしながら、足元はハーフパンツ、素足にスニーカー。コンセプトも季節感も不明の出で立ちだが、これでもclub indigoきっての売れっ子、ナンバーワンホストだ。

(p19)

とか

ヘアスタイルはボリュームのあるロングのドレッド、それを大きなニットキャップの中に無理矢理押し込んでいる。横から見るとエイリアンの頭部のようだ。

(p116)

と若者ファッション(といっているあたりがもう齢)を描写していれば、憂夜の王道ホストファッションもこんな感じ;

今宵は黒地にピンストライプの三つ揃い、社交ダンスのコンテストにでも出るつもりなのだろうか。

(p52)

また続きを借りなくては!

<加藤実秋 「インディゴの夜 チョコレートビースト」 2006年 東京創元社>

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