最後はそう来るとは予想してませんでした。:海堂尊 「螺鈿迷宮」


「チームバチスタの栄光」から始まる田口・白鳥シリーズは、気も遠くなるほど待たされて(図書館に)やっと借りれたのに、白鳥単品しか出てこない「螺鈿迷宮」は借りられてもいなかった・・・
なんで?

とは言うものの、読んでみたら面白かった。シリーズ第二弾の「ナイチンゲールの沈黙」より面白かったと思う(ちなみに「ジェネラルルージュの凱旋」は速水先生がかっこいいという理由だけで1位)。
終盤でおセンチな雰囲気になるのはちょっといただけないし、キャラも“いかにも物語”といった風の人物ばかりだったけれども、総合的には面白かった。

というか、キャラに関して言えば、医療というこの上なく現実的、且つ作者が医者のせいか医療現場からのメッセージみたいなものが含まれている本書としては、ちょっとくらい非現実的な登場人物の方がバランスが取れている気がした。

ちなみにキャラの中では、おばあちゃんのトリオが一番好きだった。天馬が最初に出会うシーンなんて可愛すぎる;

 ベッドから、むくりと頭を持ち上げた生物が、東・西・南の三方から北の扉に佇む僕たちに向かって一目散にかけ寄ってくる。赤・青・黄色の色違いでお揃いのTシャツを着た三人組の婆さんたち。顔立ちは全然似ていないのに、服装が同調<シンクロ>しているせいなのか、三人揃って僕を見つめるその姿は血縁以上の強い連帯感を感じる。

(p47)

天馬はこの後勝手に、孫悟空、沙悟浄、猪八戒と名付けるのだが言いえて妙。
「ジェネラルルージュの凱旋」にて白鳥の部下、姫宮がさりげなく(?)どたばたしていたので、“こりゃ「螺鈿迷宮」への伏線なんだろうなぁ”と思っていたら、果たしてそうだった。

とはいっても主人公は姫宮ではなく、落ちこぼれ医大生・天馬大吉。
新聞社の支局でバリバリ働く幼馴染の別宮葉子にはめられて、碧翠院桜宮病院へボランティアという名目の上、潜入調査することになってしまった。

というのは厚生労働省から調査依頼が来たのと、やくざもどきが運営のメディカル・アソシエイツ(ちなみに速水先生が融資を受けていたのはここだったはず)の社長の娘婿が碧翠院桜宮病院に行ったっきり帰って来ていないので、その依頼も葉子の元へやってきたというわけだ。

最初はボランティアとして潜入した天馬。
しかしその前から看護婦として潜入していた姫宮(天馬はその正体を知らない)によって散々なめにあって、とうとう入院するハメになる。

それはさておき、その碧翠院桜宮病院というのは、碧翠院と桜宮病院が合体したもので、我が東城大学病院と双璧をなす。

とはいっても、碧翠院桜宮病院の方がずっと歴史があるが、現在は東城大学病院の方が圧倒的に大きい。しかもかつてあった東城大学病院から病人を流してくれるということもなくなり、実質的に東城大学病院に切られた形となり、いよいよひっ迫していた。

さて、経営体制はというと、院長の桜宮巌雄を筆頭に、娘である副院長小百合、その双子の妹であるすみれが仕切っている。小百合は桜宮病院、すみれは碧翠院を担当している。
表面上では“終末期医療で画期的な試みをしている”とされている碧翠院桜宮病院。
確かに病人を病人として扱うのではなく、役目を与え、それだけでなく“すみれ・エンタープライズ”という会社の社員として働くことになっているのだった。
その一方で死人が出すぎる。

しかも、“死”に関して実に淡白で、あんなに元気だった患者が明け方に死に、朝には解剖、葬式、火葬と済んでしまう。一体碧翠院桜宮病院では何が起きているのか?
というようなことを、国の終末期医療に対する扱いを批判しながら進んでいく。
なんというか、あれですね。

「チーム・バチスタの栄光」から始まる田口・白鳥シリーズの話は、大学病院の弊害みたいなものが出ているけど、こちらはファミリービジネスの弊害が出ている気がする。感情的に運営されるところとか、割と手前勝手な感じとか。

大体、病院をたたむのに当たって、自分たちの希望を叶えていく、なんてファミリービジネスだったからできたことでしょう。

安易にすべてを放棄して一族が消滅だとか、最後に天馬が白々しく勉強を頑張ると決意するところだとか、納得いかないというか、これで“終わりかー”感が否めなかったけれども、肝心要なところがリアリティに富んでるものだから総合的には合格点だった。ポイントを押さえているっていうんでしょうね。
こりゃ現役の勤務医であるってのが強みとなってるってことですかね。

海堂尊 「螺鈿迷宮」 平成18年 角川書店

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