図書館でぷらぷらして見つけた森見登美彦。
「夜は短し歩けよ乙女」は面白かったかが、「きつねのはなし」はあんまり好きでなくて、最後まで読まなかった。
はたしてこれはどうなるか?と思って読んだら
面白かったです!
狸の話ってのがとても受けた。
それでもって天狗が出てくるのも個人的にツボでした。
舞台はまたもや京都。
主人公の「私」は、なんと狸。
偽右衛門(狸の頭領の呼び名らしい)であった立派な父親を持つ、ダメ4兄弟の三男。
この4兄弟ってのが、「長兄のカチカチに堅いわりに土壇場に弱い性格と、次兄の引き篭もりと、私の高杉晋作ばりのオモシロ主義と、弟の「史上未曽有」と評される不甲斐ない化けぶり(p49)」らしい。
天狗界、人間界、狸界の中で、一番阿呆な狸といえども、家ごとの確執があったりなんかもする。
主人公の狸・矢三郎一家もまさにお家騒動の渦中にあって、彼らの父・下鴨「偽右衛門」総一郎は稀なる偉大な狸だったが、人間たちに狸鍋にされてから、彼の父(つまり矢三郎の叔父)がのさばってくる。そして矢三郎一家に何かと嫌がらせをしてくるのだ。
そんな話と並行して(というかシーン的にはこっちが先)、矢三郎と、彼のかつての先生だった天狗・如意ヶ嶽薬師坊、通称赤玉先生との交流も描かれる。
この赤玉先生、かつては偉い先生だったのに、半天狗に先生によってなった元人間の弁天に現を抜かしてから、評判はガタ落ち。しかも矢三郎と弁天のいたずらにより(矢三郎はほぼ弁天にそそのかされた形)、怪我してからすっかり神通力をなくして、今や出町商店街の北にあるアパート「コーポ枡形」に住んでいる。
そんな先生を、罪悪感から世話する矢三郎。弁天を追いかける赤玉先生。先生から逃げつつ、ほうぼうでその魅力を使って悪事を働く弁天。弁天から逃げ惑う矢三郎。
それに加えて、矢三郎一家の温かなホームドラマも繰り広げられる。
とりあえず出てくる登場人物(人だけじゃないけど)が魅力的でしょうがなかった。
矢三郎はもちろんいいとして、宝塚好きでいつも宝塚風の美青年に化けるお母さんもいいし、蛙に化けすぎてすっかり狸に戻れなくなった次男なんてまさにツボ。本当、2番手っていうポジションにはいいキャラつくよな。
あと末っ子がまた可愛いんだ、これが。化けるのが下手ですぐ尻尾が出ちゃうんだけど、例えばものすごい汚い赤玉先生の家に行った時;
見ているだけで鼻がむずむずする。弟が「ちん」とクシャミをして、尻尾を出した。
(p93)
なんてすっごい可愛い。
あと絶対姿を見せない矢三郎の元・許嫁の海星もいい。乱暴な言葉でしゃべるのがね。
赤玉先生はまぁ良しとして、ただ嫌だったのが弁天。
自由な女の人で、皆に崇められているっていう設定は、私としては好みなんだけど、どうにもこうにも。とにかく「嫌な奴」って感じがしてしょうがない。
実は「夜は短し歩けよ乙女」の女の子も、すっごい嫌だったんだよな。
どうも森見さんの描く女の子はダメっぽい気がする。
弁天が出てくる時にいらっとさせられる以外は、何度も言うけど実に面白かったので良しとするけど。
それとやっぱこの人、文章面白いな;
赤玉先生は車中ですっかり眠りこけてしまった。山鳥の尾のしだり尾の長々しい涎を垂れ流す先生を担ぎ上げて、私はタクシーを降りた。
(p43)
とかね。
天狗・人間・狸が一緒になって暮らしてて、互いに混じり合って生活しているっていう、ある意味ファンタジーが、こんな嘘くさくなくお話として確立できるのは、ひとえに舞台が京都だからだと思う。
やっぱすごいな京都
森見登美彦 「有頂天家族」 2007年 幻冬舎
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