股の下から見るのを勧められる観光地は天の橋立でないですかね:恩田陸 「不連続の世界」


読む本が浮かばない時の恩田陸。ということで図書館から借りてきた「不連続の世界」。

実はこの本にはちょっとしたごたごたがあって、しばらく読まれない状況にあった。
というのは、私は家の近所の図書館と、会社に隣接している図書館を利用しているのだが、「不連続の世界」は前者の図書館で借りてきた。それと同時に、後者の図書館から借りたけど、結局読まずじまいでどんどん延滞し続けている本が家に転がっていた。

しばらく本社勤務でなくなるので急いでその本を返さなければ!と焦るあまりに、出掛け間際にひっつかんだ本は「不連続の世界」。そしてそれに気付かず、返却ポストへ投函…
いやぁ~ 次の日に携帯に電話がかかってきた時にはびっくりしましたよ。
しかもすぐには取れなかったので、留守電に図書館の人から「本日中にかけてください」と入っていてたじたじ。

“あの図書館で借りてる本は一冊も延滞していないはずなのに。いやいや『返却された本についてお話したいことがある』って言ってるから、延滞のことじゃないか。ってかなんだーー!?”と随分やきもきして掛け直し、事の顛末を知ってがくーーー。
自分の不甲斐なさに愕然。
ま 期せず本社に帰る用事ができたからいいけどね!
ということで、本日、延滞しまくってた本と引き換えに手に入れた「不連続の世界」。

何も知らないで読んでみたら、前に読んだ「月の裏側」に出てきた多聞が主人公だった。
あとがきに本人が“トラベルミステリー”と書いているように、多聞があちこちでかけては謎に出会う連作となっていた。

「木守りの男」

散歩の途中によく会う先輩。彼からいつも一方的に夢の話を聞く多聞。“続きはコモリオトコに聞かせてもらえ”的なことを言われた直後、木のてっぺんにやせた老人も見る。一緒に見上げた少年から、あれが木守り男だと聞き、木守り男が見えると不吉な証拠と言われる。
結局木守り男が何者かは語られないが、その先輩が豪華な邸宅とボロ家との二重生活をしていた訳を解明するのが、本エピソードのあらすじらしい。ついでに、木守り男が出たせいかなんなのか分からないけど、この後にバブルが崩壊しましたとさ、といったオチがついている。

「悪魔を憐れむ歌」

それを聞いたら死にたくなるという歌がある、という噂を聞きつける多聞。それがただの都市伝説的なものではなくて、どうやら本当らしい、しかもそれをラジオ局に送りつけた人物がなんとなく分かった、と聞き、その人物に会いに行く。
なんとなく漫画の「百鬼夜行抄」の中の話に似ていた(晶ちゃん初登場のエピソード)。本書の最後の章にて、怪談噺でしようかと多聞が思うくらい、割とぞっとするホラーっぽいテイストのお話。

「幻影キネマ」

仕事で、これから売り出そうとしているバンドのPVを撮ろうと、バンドメンバーの一人の故郷にやってくる。
ところが当の本人は気が乗らない様子で、しかも映画のロケ班を見て、何やら怯えている。多聞が二人っきりなった時を見計らって聞いてみると、昔から自分が映画ロケを見ると身近な人が死んでしまう、ということを聞かされる。
彼が子どもの頃に見た、赤犬と鎌を持った子どもの8ミリ映画の真相を知った時、本当にぞっとした。

「砂丘ピクニック」

翻訳家と一緒に砂丘を見に来た多聞。今翻訳している本の記述に、この砂丘について不可解なことが書いてあったので、それを確かめに砂丘に来たくて多聞を誘ったらしい。
その本は随筆なのだが、砂丘が突如として消えてしまったエピソードが残っているのだ。しかも著者は科学者。
その謎と同時に、美術館で遭遇した、密室から人が消える事件が絡みながら、2つの謎が解決される。

「夜明けのガスバール」

夜行列車に乗って怪談噺をしながら讃岐うどんを食べにいく中年4人組。その中に多聞が入っているのだが、多聞のネタとして、妻のジャンヌが行方不明である話をする。しかもただ近辺を映したポラロイドが送られてくるという謎。
この謎が解明された時は一種の切なさを感じたが、それと同時に、今までの多聞からは考えられないことだな、と違和感を感じた。
相変わらず文章力に舌を巻く。たとえば

 屋外で音楽を聴くと、音が実体を持った物質であることを改めて実感させられる。
 チェロの音が石畳の上を這い、ヴァイオリンの二つの旋律が蜘蛛のように宙に糸を飛ばしている。ヴィオラの響きはレースの漣だ。

(p110)

とか、ともすれば美辞麗句な感じがするところが、全体的にさっぱりしているせいか、さらっと描かれている。

あとちょっと気になったのが、恩田陸の作品に「集団ヒステリー」という言葉が結構出てくるなということ。
だから何、というわけでないけど、ふと思ったのでメモまで。


恩田陸 「不連続の世界」 2008年 幻冬舎

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