ロビンソン・クルーソーの作者がスパイとは知らなかった!:柳広司 「ジョーカー・ゲーム」

著者 : 柳広司
角川グループパブリッシング
発売日 : 2008-08-29
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【再読】
http://nizaco.blog91.fc2.com/blog-entry-646.html

「ダブル・ジョーカー」が売り出された頃、スパイ小説と聞いていてもたってもいられなくなったが、それは第2段というのだからすぐ読むわけにいかない。
それから古本屋でその1巻目となる「ジョーカー・ゲーム」を手に入れ、さて読もうとなったが、いかんせん、後から後から予約した本が図書館から届く。そして図書館には返却期限がある。
となると、手元の本は蔑ろになってしまう…


なんて長々と言い訳を書いたのは、読んでみてものすごく面白くて、こんなに長い間ほったらかしにしてごめんよ~という罪悪感にかられてだったりする。

本書は、時代は第二次世界大戦が始まる頃、憲兵が活躍し、陸軍がのさばり、中国に日本が進出した頃、元スパイの結城中佐が設立したスパイ養成所、通称D機関を中心にした連作5作が収められている。

「ジョーカー・ゲーム」

結城中佐が設立した通称D機構は陸軍の中で浮いているし、快く思われていなかった。
佐久間陸軍中尉は、上層部からの命令で参謀本部とD機構のパイプ役として、D機構へ送り込まれる。
そこの学生は皆異質で、挙句の果てには天皇制について談義をするくらいだ。
スパイ容疑がかかっているアメリカ人技師の家を家宅捜査に入ったのをきっかけに、佐久間は自分がD機構に送り込まれた本当の理由に気づく。

「幽霊(ゴースト)」

テロ計画の加担の容疑がかかったイギリス総領事。そこへもぐりこんだD機構の学生。
表向きの姿はテーラー寺島の店員であり、あるきっかけでイギリス総領事のチェスの相手となる。
何回かのチェス対戦から鑑みるに、彼は限りなくシロである。でも完全なるシロ(もしくはクロ)でない限り仕事は終わらない。

「ロビンソン」

ロンドンへ潜入したD機構の学生。突然スパイ容疑で逮捕されてしまう。
なんとか打開策を考えるが自白剤を飲まされてしまう。

「魔都」

舞台は上海。D機構の者はちらりとしか出てこず、主人公は上海に派遣された憲兵。
上司より自分達の中に内通者がいるので調査するよう命ぜられる。そんな折に、上司の邸が爆破されてしまう。
その調査を行ううちに真相にたどり着くのだが、どうやらそれはD機構の工作員によって導かれたようだった。

「x x」

卒業試験として、ドイツ人の二重スパイを見張ることになった飛崎。
ところが彼が見張っている間に、彼は何者かに殺されてしまう。
最後の話が一番面白かったと思う。
それから察するに、確かに私はスパイ小説が好きだけれども、一番醍醐味に感じているのは、スパイ達がどうやって策略をめぐらすのか、とか、いかに困難なミッションを頭脳と機智とで乗り越えていくのか、というころでないらしい。
もちろんどんでん返しなんてすごく好きだけれども、スパイ達が時折チラリと見せる人間性が堪らない。
だからこそ飛崎が卒業試験を通して;

 飛崎には“ちずネェ”の面影を捨て去ることが、どうしても出来なかった。他人の目にはいかに取るに足らないものだとしても、人にはどうしても裏切ることができないものが、ある。捨て去ることのできないものが、ある。  ――これを捨て去ったら、自分が生きている意味が分からなくなる。

と気付くシーンがやけに心に残る。
そして結局スパイになることを辞める飛崎は、機密機構を知ってしまっていることもあって、前線に送られることになる。そして去り際に結城に本名で呼ばれるシーンは、映画の一コマを観ているようだった。そんなドラマチックに描かれているわけではなかったけど。

ということで、「ダブル・ジョーカー」を早く読みたい!


柳広司 「ジョーカー・ゲーム」 平成20年 角川書店

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