「春一郎」って名前がいい:小川糸「喋々喃々」


「食堂かたつむり」に感動してしまった私としては、新しく出た小川糸の「喋々喃々」を読まずにはいられない。
だからといっていそいそと本屋に買いに走らなかったのは、どうも不倫の話だと聞いたから。
どうもねー 不倫の話って好きでないのよ。建設的でないし、本人たちは愛し合ってどうのこうのと盛り上がるけど、家族のことを考えるとねやるせないというか。ま つまりは自分の道徳に反するわけですわ。

そんなわけで図書館で何十番と並ぶ予約の列に並んだ。
そしてやっとこさ借りて帰って来て、夕飯を食べながら一気にお終いまで読んでしまった……。
部屋の片づけはどうなってるのかい…?
それはともかく、お話はやっぱり不倫の話でそこんとこは納得いかなかったけれど。どうしてかねー 彼女の描く何気ないシーンとか思い出話に涙すること多々。

もちろん哀しいシーンで泣いてしまうこともあるけど、そういうのじゃなくて本当に何気ないシーンでこそポロポロしてしまう。
今回の主人公はアンティーク着物を扱うお店を営む横山栞。記述にあったかもしれないけど、多分20代後半。

舞台は谷中。この二つで作品に対する印象は良くなってしまう。
なんて私のツボにはまっている作品なの!
物語の本筋はある晩、男性が客として現れるところから始まる。
お茶のお稽古で初釜に着ていく着物を求めてきたのだ。彼の名前が木ノ下春一郎。
その後、食事や呑みに付き合うようになり、お互い惹かれていく…という感じ。
前述した通り、不倫話はあんまり得意でないので、そういうシーンではじれったかった。特に、アンティーク着物屋+谷中(下町)とここまで自分の好みが揃っているのに、なんで不倫かなーって感じではあった。

でも谷中に住む人々との交流なんて良かったし(特にイッセイさんとか!)、家族の話が良かった。
栞には妹が二人いるのだが(その内の一人は半分しか血がつながっていないけど)、自分も3人姉妹の長女だからというのもあって、姉妹の関わりなんて親近感が湧いた。家族背景は全然違うけど、妹と自分の間柄というか、二人の間で交わされる言葉のないやり取りというか、そういうのがよく分かった。
もし小川糸さんが男兄弟しかいなかったり、一人っ子だったりしたら驚きだな、というくらい。
あとやはり食べ物が必ず出てくるのが小川糸さんだなぁ~と思った。
何せ七草粥を炊くところから話が始まるんだから。

 こうして春一郎さんと同じ物を食べることで、少しずつ、春一郎さんの体と私の体が同じ物からできていくのがうれしかった。同じ細胞、同じ匂い。春一郎さんと重ねた食事が、年輪のように、私の体に刻まれていく。春一郎さんの体にも。

(p176)

なんて、前作の「食堂かたつむり」からの食べ物に関する信念みたいのを感じる。
前作も本作も死の影や別れがつきまとう、物悲しいお話だったりして、本来の自分の本の好みとは違うのだが、小川糸さんの文体や感性に惹かれてしまう。
というわけで次回作も早く読みたいのであります。不倫の話はもう勘弁だけどね!


小川糸 「喋々喃々」 2009年 ポプラ社

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