「図書館の海」かと勘違いしてたわ:恩田陸 「図書室の海」

久しぶりの恩田陸。
友達が恩田陸にはまり、恩田陸の話をしていたら読みたくなって図書館から借りてきた。
奇しくもその友達も「図書室の海」を同じ時期に読んでいた。
それはさておき、「図書室の海」は短編集で、短編集が苦手な私としては満足する結果にはならなかった。

恩田陸の面白さって、話に流れがあって、その流れが激しくって、ががががーーーっと読めてしまうってことにあるのだと思うのだが、短編集だったらそうはいかず。それがゆえの不満足、といった感じだった。

収められている短編は以下の通り;

「春よ、こい」

卒業式を迎えた少女2人。卒業式当日にどちらかが交通事故で死んでしまう。
何度もやり直してなんとかそれを阻止しようとする。
本書の中で一番面白かったと思う。きれいにまとまっていて、短編の醍醐味がよく出ていたと思う。

「茶色の小壜」

不気味な話だった。
主人公がある時、交通事故に遭遇する。そこで見かけた同じ会社の女性。彼女が的確な処理をしていた為、目についたのだが、それだけでなく、その後に血を見て笑っているのを見てしまい、どうも気になる。
そして彼女のロッカーにある茶色い小壜。その中に何が入っているのか…
時間が経ってから思い返すと大したことないのだが、読んでる途中は不気味で気持ち悪かった。

「イサオ・オサリヴァンを捜して」

日系の兵士、イサオ・オサリヴァンを追うドキュメンタリーチックなお話。
イサオ・オサリヴァンは優秀で、不思議な雰囲気を持った、魅力的(私から見ると)な人だったみたいだが、ある時ふと姿を消してしまう。
割と面白かったのだが、最後のオチがいまいちだった。イサオ・オサリヴァンの正体にあたる話が意味不明で、それだけに釈然としない感が募った。

「睡蓮」

理瀬が子供の頃のお話。
久しぶりの理瀬で、なんか「よっ!」ってな感じだった。
稔と亘と祖母と住んでいる頃の話で、実父のことも知らない頃。
特別な物語があるわけでもなく、子供だった理瀬が色々と分かってくる、というお話(だったと思う)。
理瀬を抜きにしたら、少女から一歩“女性”に近づくお話、といったところか。ただ稔は黒、亘は白で、稔と理瀬は似た者同士、という設定を知っていると、また赴きがちょっと変わる。

「ある映画の記憶」

主人公が昔観た「青幻記」という映画の話から始まる。
母親から、その映像が心に残っているのは叔母の死が関係あるのではないか、と言及されたところから、叔母の死の話が出てくる。
彼女はその昔、海辺の岩で死んでいたのだ。ところがその死には奇妙なことがあって、回想の終わりにその謎の答えに行きつく。

「ピクニックの準備」

あらすじに『夜のピクニック』の予告編として書いたもの、とあったが、実にその通りで、物語が始まる前って感じ。
だから『夜のピクニック』を読んだことなかったり、その存在を知らない人が読んだら、「なんじゃこりゃ?」って感じだったと思う。
短編集に入れなくてもよかったんじゃないかな、と思うくらい、短編“小説”にはなっていなかった、というのが正直な感想。

「国境の南」

学生の頃、よく降りていた駅に久しぶりに降りた主人公。かつて喫茶店があった場所に新たな喫茶店があり、そこに入ったところから回想が始まる。
かつてあった喫茶店で殺人事件が起きた。それはウェイトレスが、客に出す水に微量のヒ素が入っていたのだ。

「オデュッセイア」

動く都市の話。
ココロコと呼ばれる都市(といっていいのか?)は動けるし、泳げるし、人ともコミュニケーションが(といってもしゃべるわけではなく、人が言うことを理解しているのみ)できる。
そのココロコの歴史、というか遍歴がお話となっている。
後半部分で、テクノロジーが発展して、とかスピードがあがった時代だとか、核爆発っぽいのとかはありきたりな感じだったけど、都市が動く、というのがジブリの「天空の城ラピュタ」とか「ハウルの動く城」っぽくて面白かった。

「図書室の海」

これまた『六番目の小夜子』の番外編。
時系列としては『六番目の小夜子』の前らしく、関根秋の姉・夏が主役。
この夏というのが;

問題なのは、彼女はこの年ごろの娘にしては――いや、彼女の場合、幼い頃からそうだったのだが――いささかバランスが取れ過ぎており、自分を含め誰に対しても客観的な視点を持ち過ぎているということなのだ。
 彼女は幼い頃から、薄々気付いていた。
 自分が物語のヒロインにはなれないことを。
 主人公になれるのは、揺れている者だけだ。さざなみのようにきらきら瞬いて、光る部分と影の部分とを持っている者だけが主人公になれる。…(中略)…つまり、自分のように悩まぬ者、失敗しない者はヒロインになることはないのだ。

(p171)

といった人なのだが、これまた恩田陸の主人公らしいなと思った。
恩田陸の主人公なり登場人物って、物事をものすごい客観的に見たり、完璧すぎる子(そして大体女の子)がよく出てくるなと思う。
「大丈夫だよ、君はちゃんとヒロインだ」と夏に言いたい。なんちゃって。

「ノスタルジア」

なんだか意味のわからない話だった。
最初の方は、何人かが集まって『懐かしい』話をしている。それが突然、幼馴染と旅先で落ち合う話になる。
しかもその話ってのがなんだかよく分からなくて、とりあえず何がなんだかわからなかった。

特に最後にこんな話だから、きちんと読む気力もなく、面倒くさいので分からないまま終わってしまった。ごめんなさい、恩田陸さん。


恩田陸 「図書室の海」 2002年 新潮社

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