カタカナばかりの名前は覚えるのが大変…:高野史緒 「架空の王国」


突然高野史緒が読みたくなって、図書館から「架空の王国」を借りてみた。
全然予備知識がなかったので、どんな話か知らない状態で読み始めてみたら、舞台が現代でちょっとびっくりした。

といってもここは高野史緒なので、時代は現代でも舞台となるのは“架空の”ボーヴァル“王国”。
フランスに吸収されてしまうんではないかというくらいの小国で、王族が支配しているこの王国に、日本人留学生瑠花がやってくるところから始まる。彼女はサンルイ大学に特別枠として入学しようとやってきたのだ。

ところが指導教官であるトゥーリエ教授とは生きた姿で出逢うことはなかった。
教授を訪ねに図書館(にいると言われたので)に行ったら、そこで教授は倒れていたのだ!

これだけでミステリーチックでドキドキなのだが、それが王権を巡る歴史的文書をめぐって、より一層複雑になる。
ここボーヴァル王国は、国王に世継ぎがいない場合、フランスに合併されてしまうという法があった。
ところがその逃げ道として、「ボーヴァルの相続は血統の他に、教会が与える聖別によっても可能」という特許状があった。そして、現王太子も現国王の血統ではなく、聖別によってなる予定の者だった。
この文書の真贋問題と、その文書をめぐって人がバタバタ死んでいるのとで、トゥーリエ教授の死がますます不審となっていく。

瑠花と件の王太子、フランソワ・ルメイエールは探偵のまねごとのようなことを始める。
余談だが、このルメイエールはなんとなく好感が持てた。
何を考えているか分からないところがあったり、ちょっと怪しかったり(何せ瑠花が不審だと思っていたくらいだし)するが、瑠花が日本人でありながら西洋史を勉強する自分に迷いを感じている時に彼が言うセリフが好きだ;

「国境はあるからこそ面白いんだ。アメリカ人がヨコヅナになったって、ロシア人がタンゴを作曲したって、別にいいじゃないか。それは恋をするようなものだ。誰にも止められない。」

(p245)

う~ん 今抜き出してみて読むと、あんまりどってことないけど、彼の口調で(もちろん私の想像の中で)あの状況で「国境はあるからこそ面白いんだ」というのが良かったのかな。特に、前の場面で国王に対して“文化”や“歴史”論を語っていたし。

閑話休題。

二人で探偵していくうちに、瑠花は王太子の聖別を反対する人たちに出会う。
なんで彼らが反対するのか?というのも謎になってくるのだが、最終的には国家レベルのボーヴァル王国の秘密も暴かれ、とりあえず総て解決されて終わりとなる。

「ラー」とかに比べたら、人物に魅力はないし、物語も整理されていない感があった。そのせいか「面白い!」という印象もなく、どちらかというと、歴史講釈が長くてちょっと飽き飽きした部分もあったのが残念。
ま でもこれは作者の3作目(多分)っぽいし、どこからが作者の想像の産物なのか分からないくらいの、綿密なる歴史作りがされていたので、その点は評価すべきだと思った(偉そうだけど!)。


高野史緒 「架空の王国」 1997年 中央公論社

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