“~”が普通に出てくるのにちょっと抵抗感:香月日輪 「妖怪アパートの幽雅な日常1」


書店でぶらりと児童書コーナーにいって眼に着いたのが「妖怪アパートの幽雅な日常シリーズ」。
あまりおどろおどろしくない妖怪だとか幽霊(どちらかというと妖怪のほうが好みだけど)の話が好きなので、さっそく図書館で借りてみた。
児童書というのもあると思うが、面白くて一気読みしてしまった。

いやぁ~ こういう児童書ってわくわくするよな。大人向けの小説ではなかなか“わくわく”はできないから、ある意味“わくわく”は児童書の特権かも、と思わせられた一冊だった。
お話というと、タイトル通り妖怪が溜まっているアパートでの生活模様。

主人公の稲葉夕士は中学生の頃に両親と他界し、叔父さんの家で厄介になっている。
その生活から脱出するため、寮のある商業高校に無事合格し新たな生活の幕開けかと思いきや、その寮は全焼。

かといって、新築の寮が建つまで叔父さんの家からは通いたくない。
どうしたもんかと途方に暮れているときに、不動産を営むというおじさんから破格の安さの物件を紹介される。
どうやらそのアパートは“出る”らしい。
しかし、自分のあこがれの詩人が住んでいるのも分かり、新築が経つまでそのアパートに厄介となることにする。

そして確かにそのアパートは“出る”とこだった。
妖怪から幽霊までなんでもござれ。
まかないをしてくれる手首だけのるり子さん。
かわいい坊やのクリに、いつもクリと一緒の犬・シロ。
いつも麻雀している鬼。
玄関口にあいさつしてくれる華子さん。などなどなどなど。
もちろん人間もいて、除霊師の訓練している同じ高校に通う秋音ちゃん。
詩人の一色黎明に画家の深瀬明。
胡散臭い骨董屋。
骨董屋をしのぐ謎の人の龍さん。

この話の面白いところ、個性的なキャラが次から次へと出てくるが、ただワイワイ楽しく話が進むわけではなく、夕士が悩んだり憤ったりするところが前面に出ているところ。
完全なるエンターテイメント小説ではないということだ。

ま、そこが児童書っぽいところかもしれないけど(教訓が含まれているって感じのところが)、ちゃんとテーマがはっきりしているのがよかった。
中でも両親がなくなった(しかも幼い時ではなく中学生のとき、というのもミソだと思う)夕士が、不良になっていく同級生と関わったり、親に虐待されて死んでしまったクリと出会ったり、という筋がよかった。

特にクリの話は涙もの。
クリは虐待されて死んでしまうのだが、その直後クリの世話をしていたシロによって母親も死んでしまう。
ところが死んでも尚、母親はクリを殺しにやってくる。それを他の妖怪・人がガードするのが、そこでのシーンがまた哀しい;

 すやすやと眠るクリの寝顔がたまらなくあどけなくて、かわいくて。あんな化け物に死んでも渡したくないと思う。雷鳴の如く怒った茜さんの気持ちがよくわかる。
 だけど、人間性もなにもかも、すべてを失った女がただ一つ覚えているのが我が子のことで、それだけをたよりに女は子どもの元へたどりつく。子どもに手が届かなくて泣き叫び、来るって、暴れて、女は確かに我が子を恋しがっていた。
 その「思い」が間違っているなんて、哀しすぎる。
 その「思い」が子どものためにならないなんて、哀しすぎる。

設定が面白く、時にはジーン、時には考えさせられる、といったタイプのお話だった。
早く続きが読みたい!


香月日輪 「妖怪アパートの幽雅な日常1」 2003年 講談社

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