タイトル文字のへろへろ具合は、ラムセス2世の字だから?:西加奈子 「きりこについて」


これまた読書会で紹介された本「きりこについて」。
“ぶす”な女の子が主人公、ということと、猫が出てくる、というところと、あとネタばれ的に猫が語り手ってところに魅かれて借りたのだが。
この最後の部分は、最後に行き着いて“ネタばれやったやないかぁあああ”と気づいたのだが、まぁ分かっててもそれはそれで面白い。
ディズニーアニメでは「美女と野獣」がトップ3に入るくらい好き、ミュージカルでは「オペラ座の怪人」が好き、という私にとっては、“醜い”とされている人が題材ってのは面白そうだなぁと思っていたのだが、こういうアプローチの仕方か!とやっぱり面白かった。
しかも軽いノリで書かれているので、全然しめっぽいところなんてなく、一気に読み終えることができた。
そもそも話の流れを見てみても、全然しめっぽくない。

まず主人公はタイトルになっている通り、きりこという女の子。
この子がまた不細工で、だからといって両親に似たというわけではなく、両親は美男美女。
そしてここがほほえましいのだが、両親はきりこを本当に“可愛い”と思っている。
だから小さい頃から「かわいい、かわいい」と言われて育てられ、他の人だってぎょっとすれどもよそ様の娘を不細工呼ばわりすることがないもんだから、きりこはすっかり自分が“可愛い”と思っていた。
幼稚園、小学校低学年と、自分をお姫様のように思っていたきりこ。
そしてきりこの威圧感に、何の疑問を持たずにきりこを敬っていた同級生たち。

そんな時にきりこは学校の体育館の脇で黒猫を見つける。
ラムセス2世と名づけたその猫は、きりこのことを慕うようになる。
そもそもきりこの猫に対する接し方や、その不細工な容貌は、猫にとってはこの上なく素晴らしいものだったらしい。
曰く;

「可愛い。」
 この言葉、獰猛な肉食獣の血をひく種族に言うのは、大変失礼なこと、猫にとっては屈辱である。
「鼻が濡れてるわ、可愛いなぁ。」
「肉球が桃色やわ、可愛いなぁ。」
 笑止!
 猫は高潔な肉食獣である。濡れた鼻と桃色の肉球で、人間を襲うことだって出来るのだ。

(p12)

そんな猫に対して、

 きりこはよく、ラムセス2世を抱き上げては、「賢いなぁ、賢いなぁ」と言った。きりこは自分が世界一可愛いと信じているので、自分以外の者にその言葉を使うことを許さなかっただけなのであるが、ラムセス2世は、それを感謝した。

(p11)

ってな風に、ちぐはぐながら、なんかうまくいっているのが微笑ましい。
でもただ微笑ましい、と思っていられたのもある事件までだった。

小学校6年生となって、きりこは初恋の相手に手紙を送る。
しかし、靴箱に入れたその手紙を、本人より前に他の人に見つかってしまって、黒板にはられはやし立てられるのだった。
そこへ当の本人がやってきて「やめてくれや、あんなぶす!」と言い放つ。
その時から同級生の中での夢はさめ、“きりこがぶす”という事実が白日のもとにさらされることになるのだった。

そんなわけできりこは誰にも相手にされることがなくなり、むしろいじめられるようになる。
ところがここできりこがすごいのが、それでも自分がどこがぶすなのか分からなかったところだ。
2年間かかって、やっとぶすと気づいたきりこは、失意のどんぞこに陥るが、そこで支えたのがラムセス2世。
きりこはラムセス2世を通して猫語をしゃべれるようになっていたので、猫たちと仲良くなる。
なにせ、猫の世界ではきりこは最高の人だったのだから!
ついでに猫のように、ほぼ寝る生活となるきりこだったが、ある時予知夢を見る。
それは同じアパートに住む女の子が、泣いて怒っている姿で・・・・・・
といったところから、話がとんとん拍子にいい方向に流れ、それまで沈んでいたきりこが元のきりこに戻る。
そして最後の最後に

「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」(p195)

という境地に至るのだが、それを気づいたのも自分が“ぶす”だったから、“ぶすでよかった”というきりこに、猫じゃないけど多いに敬服いたしました。


西加奈子 「きりこについて」 平成21年 角川書店

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