久々の「書評家<狐>の読書遺産」より「志ん朝の落語」。
全6巻あるのだが、なぜか図書館には2巻からしかないので、とりあえず2巻より。
落語って一回しか観に行ったことがないのだが、その時は狭い小屋に押し込められて、なにやら息苦しかった印象しかなかった。
何の噺が為されたのかもとんと覚えていないのだが、あまりいい印象ではなかったのは確かで、だからこそこの本を読んで、もう一度観に行ってみたいなと思った。
そもそも落語を本で読むっていうのは変な感じだが、しかもテープからおこしてそのまま文になってるもんだから
えェ、お運びありがたく御礼申し上げます。大分この、押し詰まってくるというような…、もうそこんところまで正月が来ておりますんでね。うぅ、どうぞしとつ、来年もこういうようなところへ、ええ、是非お運びいただきたいと思っております…。
(p42)
てな調子で、読みにくいといえば読みにくい。
でもしばらくすると慣れてくるし、お話も面白いしで、短編集を読んでいるような気がしてくるのが不思議。
そして、やっぱり生で聞いてみたいな、と思ってくる。
さて、本書に収録されているのは以下の通り;
「子別れ・下」
上中下の三席に分かれているらしいが、下だけでも話は通じる。
お酒が災いをなして、奥さんと子どもと別れて暮らす熊さん。
それからきっぱりお酒と決別して三年。ある時、自分の息子の金坊に出会う。
しきりに家にあがるように言う息子に、大人の事情でお母さんに会えないことを告げ、小遣いに50銭と、次の日に鰻を食べにいく約束をする。
家に帰った金坊は、内緒にするように言われていたが、50銭のことで詰問され最終的にしゃべってしまう。
そして鰻屋で夫婦は再会し、一緒になるというお話。
「井戸の茶碗」
浪人より、その家に伝わる仏像を預かった屑屋。それをさる武士に売ったら、その仏像の中には50両入っていた。
仏像を買ったが小判は買っていない、ということで、その武士は屑屋を通して浪人に返そうとする。
ところが仏像は自分の手から離れたのだから、自分にその小判をもらう資格はないとつっぱる浪人。
双方譲らない間で、ほとほと困った屑屋は、自分が10両、残りを20両ずつ二人が引き取ればいいと提案する。
武士は了承したが、浪人はしないので、屑屋は仕方なく、何か自分のものをその武士にあげれば、と提案する。
そんなわけで浪人は屑屋を通して自分が使っていた茶碗を武士に渡す。
この一件をきっかけに武士は自分の殿様との御目文字がかなうのだが、その折にその茶碗こそが“井戸の茶碗”といって世に一つとない名器だったのだ!
殿様はそれを所望し、その武士に300両渡す。
困った武士は、またもや半分を屑屋を通して浪人に渡そうとするのだが、浪人はまた受け取らない。
ところでその浪人には、娘がいたのだが、その娘をもらってくれるなら、支度金として150両を受け取ろう、となる。
「唐茄子屋政談」
吉原遊びが災いして勘当の身となった若旦那。
しばらく女の元で過ごしていたが、金蔓じゃなくなったとたんに放り出され、ほうほうの態となった若旦那は身投げしようとする。
それを助けたのが、たまたまそこを通った叔父。
勘当を解いてもらうためにも、叔父のもとで唐茄子を売る商売を手伝うことになる。
初めて売りに出かけたら、親切な人のはからいで完売できた。
そこでお昼を食べようと、ある家の軒先を借りると、そこは貧しい母子が住む家だった。
子どものほうはご飯をほぼ食べていないようで、羨ましげにこちらを見上げる。
若旦那は自分の弁当をあげて、その上、彼らの身の上に哀れに思って、売り上げを全部あげてしまう。
店に帰ってこの話をしてもにわかに信じられない叔父。
一応、若旦那を連れてその家に行ってみると、長屋は騒然としている。
なんでも、件の母親がそのお金を返そうと追いかけたら、大家につかまってそのお金をもぎ取られてしまった。
申し訳がたたないと母親が梁に首をくくって死のうとしたところを助けた頃だったのだ。
若旦那が大家のうちに乗り込むと、暢気にご飯を食べている大家。
それに怒って殴りつける若旦那。事が事なのでお咎めはなく、勘当も解かれ、めでたしめでたし。
「刀屋」
奉公に行っていた青年。そこの娘に見初められ、いい仲になったのだが、それが旦那にばれて追い出されてしまう。
挙句の果てには、その娘は結婚することになる。
すべては娘から仕掛けたのに、この仕打ちはいかがなものぞ、と息巻いて、刀屋に飛び込む青年。
その刀屋より説き伏せられている時に、外から人がやってきて、なんでもその娘が逃げてしまったと聞く。
青年がその刀屋を飛び出していくと、そこには娘がいて、死のうとしていた。
それなら二人で死のう、と心中をはかって「南無妙法蓮華経」と飛び込んだら、筏を下を通っていたおかげで命が助かった。
「徳やァ、死ねないじゃないかァ」
(p154)
「へえ、お材木(題目)で助かりました」
「百年目」
がみがみ厳しい番頭さん。
遊びを何もしらない堅苦しい人かと思いきや・・・。
実は主人も知らないところで、粋な襦袢を着て遊びを興じるという、遊び人だった。
ある時、なじみの店の女達に乞われて、船を出して花見に行く。
最初のほうこそ人目を気にして、船の障子をぴったり閉めたり、岸にあがるのを拒否していたのだが、お酒が入って大胆になり、岸にあがるどころか目隠し鬼をする始末。
そこへ店の旦那が通りがかり、目隠し鬼となっている番頭さんに捕まってしまう。
これはクビになる!と店に戻ってもびくびくしている番頭さん。
ついに旦那から声がかかる。
ところが予想に反して、旦那からは暖かい言葉と、これからはがみがみ言うのは控えなさい、というお話だった。
「おかめ団子」
おかめ団子は、その店の娘・おかめのおかげで繁盛している。
ある風の強い時、客足がまばらとあって、早々店じまいをしていると、常連の大根屋がやってくる。
なんでも寝たきりの母親が団子が好きで、それを毎日買って帰るというのだ。
この親孝行ぶりに感動した店主は、団子を振舞う。
その時に商売の話が出るのだが、その売り上げの差に愕然とする大根屋。
家に帰り堅い布団で寝る母親を見て、是非柔らかい布団を買ってあげたいと思ったときに、ふと魔がさす。
その晩、おかめ団子にそっと忍びこむと・・・
無理な縁談に反発したおかめが首をくくろうとしていたのだった。
それを助けて店主に礼を言われるが、そもそも家に入ったのは泥棒をしようとしてだった。
でもその理由ってのが親孝行につながることなので、やっぱり感動した店主はお金をあげる。
一方おかめは、その大根屋に惚れてしまい、そんな親孝行者だったら、ということで店主は大根屋を婿に迎えるのだった。
「火事息子」
ある火事の時。大きな質屋の旦那は、蔵に目塗りをしていないことを気に病み、暖簾に傷がつくということで、騒ぎの最中に番頭に言いつけて目塗りをする。
しかし慣れない二人は、目塗りがうまくいかず、上に登った番頭は宙ぶらりんになってしまうしまつ。
そこを助けたのが、勘当されたそこの若旦那。
何も知らない旦那は、礼を言おうと自分の息子を呼び、再開を果たす。
なんでも息子は、火事が大好きで家を飛び出し、体中を彫り物だらけにして帰ってきた。
番頭からのはからいで、最初は他人のふりして自分の息子に会うのだが、すぐにその他人行儀なところをかなぐり捨てるところがよかった。
「佃祭」
佃祭にいった亭主。妻には最後の船で帰ってくるから、と言って出かけたが、その最後の船を乗ろうとしたところで、ある女に袂を取られて船を逃してしまう。
そしてその女こそが、数年前に身投げしようとしたところを助けた女だったのだ。
お礼がしたいというその女は、今は船頭と一緒になって佃島に住んでいるという。
亭主が船頭なら都合がいい、ということで、女に請われるままその家に来る。
しばらくしてその家の亭主が帰ってくるのだが、なんと!先ほど乗ろうとした最後の船は、人が多すぎて転覆してしまい、生きた人は誰もいなかったという。
今度は女のおかげで命拾いした旦那。
一方、その旦那の家では、船が転覆したという噂があっという間に広がり、噂に尾ひれがついて、佃祭に行った者は皆死んだと伝わってくる。
意気消沈する妻。
知り合いも次々とお悔やみに言いに来るなか、ひょっこり旦那が帰ってくる。
「柳田格之進」
あまりに真面目すぎるのが仇となって、主君より暇を出された浪人柳田格之進。
なぜ暇を出されたのか悩んでいる父親を見かねた娘に進められて、気晴らしに碁を打ちに行く。
そこで知り合い気が合った大店の旦那に誘われ、その家に碁をしに通うことになる。
ある十五夜の夜。
月見もそこそこに碁を打って帰った後、店の番頭が、碁を打っている最中に渡した五十両について旦那にきく。
すると見つからない五十両。
旦那はほっとけといったのに、気が治まらない番頭は、単独で柳田格之進に会いに行き、かくがくしかじか語る。
本当はとっていないが、商人に疑われては武士の沽券にかかわる、ということで次の日までの五十両そろえることを約束する。
が、なんのあてもない格之進は腹を切ろうとするのだが、それを見破った娘は自分の身を廓に売って、五十両を用意するのだった。
次の日、五十両を受け取った番頭は、もしその五十両が他から出てきたらどうする、という格之進の問いに、自分の首はおろか主人の首もあげると約束してしまう。
月日は経ち大晦日の大掃除の時。
なんと掛け軸の裏から五十両が出てくる。
番頭から話を既に聞いていた旦那は、自分の首もあげる覚悟で、賞金を出してまで格之進を探す。
そんな折、番頭はばったり格之進と出会う。主君にまた召抱えられ、すっかり身なりがよくなった格之進。
旦那は格之進と再開を果たすのだが、番頭を遠くに追いやって、格之進には嘘をついて責任を一手に負おうとする。
それを聞いて飛び出す番頭。実は控えていたのだ。
その主従愛についに斬れなかった格之進は、あの五十両の出所を明かす。
慌てて旦那は、格之進の娘を廓から見受けし、番頭と添い遂げることになって、格之進と旦那はより懇意となったのだった。
「甲府い」
店の売り物、卯の花を盗み食いしてしまったという男の話を聞く豆腐屋の亭主。
なんでも甲府の田舎から江戸へ出てきたのはいいが、すりにあって無一文。あんまりお腹がすいて食べてしまったという。
話を聞くと法華を信心するもので、豆腐屋の亭主も宗旨が同じ。同じよしみで彼を雇うことになる。
するとまぁ、よく働く人で、しかも人徳すぐれていて女子どもにも好かれる。
豆腐屋はますます繁盛し、それに気を良くした旦那は、自分の娘と添わせて婿にする。
「文七元結」
腕がいいが博打が大好きな左官屋・長兵衛。
それに見かねたその娘は吉原に行き、自分を買ってくれ、そしてそのお金で賭博でできた借金を返済して、父親に仕事をしてほしい、と願い出る。
それに心打たれた女将は長兵衛を呼びつけ、五十両を渡す。そして来年の12月に返せ、娘は預かっておくから、もし1日でも遅れたら見世へ出す、と伝える
五十両を抱えて長兵衛が歩いていると、橋から身投げしようとしている文七に会う。
なんでもすりにあって、売掛金が盗まれたというのだ。その金額は五十両。死んでお詫びをするという。
長兵衛は、五十両がなければ身投げするという文七に、自分が持っている五十両をあげてしまう。
店に戻った文七を待っていたのが、それこそ売掛金の五十両。なんと文七は得意先で忘れてきてしまったのだ。
青ざめた文七は事の顛末を主人に伝え、長兵衛から聞いた五十両の出所を伝える。
一方、長兵衛のほうはというと、せっかくもらった五十両がないということで、どうせまた賭博に使ったんじゃないかと妻になじられている。
そこへやってきた文七とその主人。
お礼とお詫びを兼ねて、酒と肴を持ってきたという。その肴こそが、吉原で預かられていた娘だったのだ。
その娘と文七は一緒になり、元結屋を開いたのだった。
古今亭志ん朝 「志ん朝の落語2 情はひとの・・・」 京須偕充・編 200年 筑摩書房
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