そういえば、札幌が舞台の本って読んだことなかったかも:佐々木丸美 「雪の断章」


mixiで見つけた読書会に参加した際に、その人のプレゼン本ではなかったけれども、雑談の中で勧められたのが本書「雪の断章」だった。
でもメモしたタイトルは「雪の代償」。
図書館の検索をかけても、Amazonで検索してもヒットせず。そうなると余計読みたくなるのが人というもの。
その人のmixi名とかを忘れてしまっていたのもあって(ひどい!)たどり着くことはないかと思いきや、その読書会の副主催者の方に名前を聞いて、ドキドキしながらメッセージを送ってみた。
快く教えてくれ、ついでにマイミクにもなってもらって、いそいそと図書館から借りたら…
ちょっと何これ!すっごい面白いじゃないの!!!
恥(?)をしのんで聞いてよかった!!!
それくらいのヒットだった。
東京創元社から出ているのもあって、殺人事件があったりと、一応推理小説というジャンル分けされてしまうかもしれないけれども、中身だけで判断するならば、純文学と言ってもいいと思う。
それくらい文章が美しくて、抒情的。
そして内容はというと、簡単に言うと“紫の上を育てる”話。なんだそれって感じだけど、物語はこんな感じ;

孤児院で暮らす少女・倉折飛鳥は、ある日、遠足に行った際に皆とはぐれてしまう。その時に出会い、親切にも孤児院まで連れて行ってくれた青年がいた。
それから二年後、飛鳥は元岡家に引き取られる。

そこから地獄の毎日が始まる。
どう考えても子どもには無理な仕事の量。冷たい夫婦に、高飛車な娘二人。
特に下の子・奈津子は飛鳥と同い年とあって、学校でもいじめは続く。

ついに耐えられなくて飛び出した先は、昔親切な青年に出会った公園。
するとなんと!偶然にもその青年と再会したのだった。
それからそれが縁で、その青年・滝杷裕也に引き取られることになる。

裕也の親友史郎、お手伝いさんのトキさんに育てられる飛鳥。
それから同じアパートに越してきた厚子を姉のように慕ったり、アパートの管理人のおじさんに可愛がられたりと、平和な日々を過ごす。

しかし幸せな日々は永遠には続かない。
無邪気に慕っていたトキさんに、裏があることをたまたま知ってしまう。
あんなに可愛がってくれているのに、まだ養女の先を探していることを知ってしまうのだ。
それから芽生えたトキさんへの不信感は、思春期を迎えるとより現実的になる。
裕也さんに対しての愛情より、トキさんは飛鳥をじゃけんにしたり、いじわるをしたりするようになるのだった。

その上、頑張って受かった高校には、あの奈津子さんがいたのだ!
そしてそして、奈津子さんのお姉さん・聖子が同じアパートに引っ越してきたのだ。
とはいっても、相変わらず裕也さんや史郎さんは飛鳥を可愛がるし、高校で初めて親友もできる。
そんなあるクリスマス時期、皆で忘年会をするというのを聞きつけて、聖子が無理矢理参加する。

そしてその晩、聖子さんは毒を飲まされて殺されるのだ。

とダラダラ書いてしまったが、実はこれが本書の半分。
あまりに好きすぎて、細かく書いてしまったが、この調子で行ったら非常に長くなるので、さらっと書くと。

飛鳥はいつしか裕也のことが好きなる。しかしそれは許されない。
そして聖子殺人事件の犯人に気付いてしまう。一時は悩み、情緒不安定になるが、黙っていることで自分の中で折り合いをつける。
そして最後の最後に……!!!!

嗚呼!!!ここは涙なしに読めない。
なんとなく夏目漱石の「こころ」を思い出してしまった。
最後のシーンの雰囲気が似ているというのもあるけれど、文章が静謐な感じが文豪に近い感じにさせているのかもしれない。

せっかく『雪の断章』なのだから、雪のシーンを引用してみると;

 こな雪がしんしんと雪を埋めた。それは声をたてずに泣き散った樹氷と崩れた雪の積木が生まれ変った姿だ。恨みの雪が降り積もっていく。
 明け方になっても雪はやまない。あきらめきれない心がわかる。しかし崩れた形はもどらないし散ったものもかえらない。朝日が濃いブルーを溶かしたセロファン紙をかぶせたように透明させた。

(p215-216)

作者の佐々木丸美さんは、残念ながらすでに他界されているのだが、正直初めて聞いた名前だった。
こんな素敵な本を書くのに広く知られていない(それか私があまり疎いのか)のは残念だけれど、違う本も読んでみたいと思った。


佐々木丸美 「雪の断章」 2008年 東京創元社

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