怒った時の言い草がやっぱり一番面白い:古今亭志ん朝 「志ん朝の落語3 遊び色々」


着々と読み進んでいる「志ん朝の落語」。
短編のようで、でもそこらの短編よりもずっと読み応えがある。きちんとオチがついていて、ということはきちんときれいにまとまっているって訳だら、面白いのも当たり前といえば当たり前だろうけど。
ついでに図書館で志ん朝さんの落語をCD化したのを借りてきて「文七元結」を聞いてみたら、思ったよりゆっくりなしゃべりでびっくりだった。イメージとしてはちゃっちゃと早口でしゃべっていたのだが、よく考えたら語り聞かせるわけだから、これくらいの速度か。

それからお客さんの笑いが入っているわけで、今更ながら「ここが笑うところだったのかー」と思うところがところどころあった。多分、笑いのツボが昔と違うからかもしれないけど、時々「ここで笑うの?」と思うところもあったのだ。
さて本書で収録されているのは;

「愛宕山」

珍しく舞台は京都。どうやらもともとは上方の落語みたい。それがここでは、旦那は江戸から京都へ遊びにきていることになっている。
旦那と一緒に京都にやってきた幇間。山登りなんて朝飯前と言っておきながら、一行が愛宕山に登るとなると青息吐息。
ほうほうの態で登りあがると、旦那は遊びの一環で小判を谷底に投げている。
「取ってこれるなら、小判を全部やる」という旦那の言葉を真に受け、小判を取りに谷底に降りる幇間。
色々苦労しながら、戻ってこれたが、気付いたら小判を持って上がってこなかった、というオチ。

「寝床」

義太夫に凝っている大店の旦那。趣味が高じて発表会を何度も開く始末。
今晩も義太夫を聞かせてやると息巻いて支度するが、店子を呼びに行った番頭から話を聞くに、皆なにやかにや用事があって来れないという。
では店の者に聞かせようとすると、これまた色々事情があって無理だという。
流石に気を悪くした旦那は、ふてくされて「明日、店子全員を追いだしてやる」と言って不貞寝してしまう。

慌てた番頭は店子たちを呼び集めて、旦那をなんとか説き伏せてやっとこさ義太夫の会が開催される。
ところが旦那が義太夫を終えて見回せば、皆寝ている。かんかんに怒った旦那は一人、泣いている小僧を見つける。
分かってくれた人がいた!と喜び、どこで泣いたのかを聞くと、旦那が歌っていた高台が小僧の寝床だという。

「三枚起請」

これは“タイガー&ドラゴン”で使われていて、伊東美咲の初登場エピソードだったのは覚えていた。
が、オチは思い出せなかった…

「この世の頼りはお前さんだけだよ」と花魁が情夫に渡す起請。ところが、その起請を複数の人に出していたことが判明し、騙された男たち三人連れだって花魁のもとへ押しかけ、なじる。
『いやで起請を書くときは熊野で烏が三羽死ぬ』って言うんだ!とつめ夜と、「世界中の烏を殺してやりたいねぇ」「勤めの身だもの、…朝寝がしたいよ」(p121)という花魁はしゃあしゃあとのたまう。
ああ、こういうオチだった!と思い出したけど、はてさてドラマ版のオチはまったく覚えていない……。

それは置いといて、マクラの部分で“烏が朝鳴いてうるさかった”といったエピソードがチラリと出てくるのだが、それが最後に非常にきいて、さすがだな!と思った。ま、通はマクラの部分で、にやりとするんだろうけど。

「佐々木政談」

南町奉行についた佐々木信濃守は、名奉行で、街中を歩きまわる人だったそうな。
ある時、河原で奉行ごっこしている子ども達を見つける。その時奉行役をやっている子の采配に関心した佐々木信濃守は、後日その子どもと親を呼び寄せる。
そこで子どもの頭の回転に好ましく思った佐々木信濃守は、15歳になってから召し仕えることを約束する。

一休さんのとんち話のようで面白かった。
特に“一つから十まで『つ』はついているか?”という仲間の問いの答えるのが面白かった(そもそもこれが、奉行役の子が裁くけんかの元となった問題)。
答えとして“ついている”と言うのだが、質問した人に“『とおつ』とは言わない”となじられる。すると;

「それァ『とおつ』とは言わん。十つとは言わんけれども…、昔は、十にも『つ』がついておったが、間で盗んだ者がおる…(中略)…これ勝っちゃん、そのほう、一つから数えてみい」
「へい。(指を折り)ひとォつ、ふたっつ、みっつ、よっつ、いつつ」
「それそれッ、そこだそこだっ。ん?『いつつ』に『つ』がふたっつもついておるぞ。盗んだに違いない。その『つ』を一つ、十のほうへ返さば、一つから十まで、『つ』は揃っておる。ん?わかったか?」

(p132)

なるほどぉ~

「居残り佐平次」

吉原でお金が払えなくて、籠城といった感じで居続ける男。
まぁ図々しくて、そのついでに退屈している客のところに相手しているうちに、客にも気にいられて若い衆などの反感を買うようになる。
困ったお店側がやっと追い出すと、そいつは居続けるのを生業としている人だった、というオチ。

「蔵前駕籠」

江戸幕府が崩壊する直前の、不安定で危ない状態の江戸を描いた作品。
吉原に行く駕籠は、浪人たちによく狙われたそうな。
その駕籠にまつわるエピソード。

「五人廻し」

花魁と、その花魁を待ち焦がれる男たちの話。
待てど暮らせどやってこない花魁に怒りを覚えて…という筋書き。
これといった話はないけれども、最初は客の目線、そこへやってきた若い衆の目線にうつり、そこから他の客の様子を描く手法は、映像っぽくてなかなか面白かった。

「干物箱」

女遊びが過ぎて勘当すれすれの若旦那。謹慎の身であったが、父が親心を出して“湯へ行って来い”という。
当初は親孝行をきちんとしようと、湯からまっすぐ帰ろうとしたが、外に出てみると女が恋しくなってしまう。
自分の声色をまねるのが得意、という男の元へ行き、自分の代わりに帰って自分になり済まして欲しい、と頼む。

その男と父親のやり取りがメインとなるのだが、本当におかしくて噴き出して怪しい人になってしまった……。
こういうにっちもさっちもいかない状態ってのは、最高のコメディになるな

「付き馬」

吉原でお金が払えなかったら、そこの人を連れて家に帰ることになり、その人のことを“付き馬”といったらしい。
付き馬はお金をもらい損ったら困るから、しつこく張り付いている。それをうまく逃げれるか、という攻防が繰り広げられたとか、広げられてないとか。

このお話は、そんなお話。
見事な手際で、着き馬の若い衆は振り切られてしまうのだが、よく考えたらこれって食い逃げだよな。ひどい話じゃ。

「羽織の遊び」

男たちが吉原に遊びにいく算段をしているのだが、皆お金がない。
そこで、金持ちの若旦那にたかることにする。そいつは鼻持ちならない奴なのだが、背は腹に変えられぬ。
なんとか取り行って連れて行ってもらうことになったが、若旦那は羽織を着て来ないと連れていかない、と言う。
皆羽織を持ってないもんだから、羽織を求めて頑張る話。

「お茶汲み」

前半は男がもう一人の男に、女郎屋での話をしている。
曰く、その女郎は涙の話をしていて、男がジーンとしているなか、ふと女の眼もとを見ると茶がらが付いている。そこで一気に冷めて、女郎は嘘の話をしていて、涙と思っていたのはお茶で濡らしていただけだと気付く。
それを聞いたもう一人の男は、同じ女郎屋に行き、同じ女を指名して、今度は彼女にその話をする、という話。

いまいちこの話のおかしみが分からなかった。どちらかというと、そんな女郎は浅ましいと思うし、聞き手だった男がやるのはえげつなくて、気持ちいい話ではなかった。

「花見の仇討」

昔、花見の場所で“趣向”を凝らそう、何かウケさせよう、ということが流行ったそうな。
これはそんな話。
4人でかたき討ち劇を一つ打とう、という話になる。
一人は敵役、そこへやってくる二人の兄弟。いよいよ敵討となってちゃんばらしているところへ、仲裁に現れる六部(行脚僧)、と役も決まり、ちょっとした稽古もして、いよいよ本番当日。

六部役の男は伯父さんに捕まってしまい、伯父さんを酔わせて、そのすきに出て行こうとしたら、逆に自分がつぶれてしまう。
そして兄弟役の二人の男は、道中、本物のお侍さんに出会ってしまい、敵討に行くところだと言ってしまう。

さあさて、偽敵討が始まる。
皆が期待した通り、野次馬がたかる。しかし、一行に六部が出て来ない。
どうやって決着をつけるべきか困惑しているところへ、先ほどのお侍さんが出てきて更に追い打ちをかける。

古今亭志ん朝 「志ん朝の落語3 遊び色々」 京須偕充・編 筑摩書房

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