「ぼくのメジャースプーン」で秋先生と動物園に行ったのは月子だったのかなぁ?:辻村深月 「子どもたちは夜と遊ぶ 下」


息もつかせぬ勢いで進んだ下巻。
読んでる最中は何もかもが上の空の状態だった。こんなに夢中になって読んだのは久しぶりかも。
もうずっと、「浅葱ーーーー!!!!」って感じ。

あーもう我ながら単純で困るけど、こういう暗い過去があって、でもそれを押し殺して生きていて、何かを強く求めているといったキャラに弱い。本当に。
内容が内容だから、どうやって落とすのかが本当に心配だった。

でも結論から言うと、私は満足のいく結末だった。というか、このテがあったか~~って感じ。
ただ終盤がちょっとダレた感があったので、あともうちょいという気がするけれど(超偉そうじゃ)、総合的には本当に面白い本だと思う。

あと、内容には全然関係ないけれども、「冷たい校舎の時は止まる」との辻村深月といい、今回の月子といい、女友達との友達関係が歪んでいる女の子が出てくるけれども、作者に何かがあったのかしらんと思ってしまった。
それはさておき、内容はというと、この先大変なネタばれを含むので注意!!!


この巻で何が一番驚いたって、月子は狐塚の妹だったということ。
本当に驚いて、“してやられたーー!!”という気持ちでいっぱいだった。もちろん良い意味で。
「i」の正体なんて消去法から考えたら、まぁそうでしょうよ、って感じだったし、浅葱の正体とやらも、漫画の「ゴッドチャイルド」でのリフと同じオチか~ということで驚かなかった。
そんなわけで、月子の正体には本当に驚きました、はい。

そしてそれが、浅葱にとってもキーとなるので、こりゃうまいな!って感じ。
さて上巻の最後で私が予想した通り、「i」が指定した次のターゲットは狐塚だった。
でもどうしても狐塚を殺したくない浅葱に、追い打ちをかけるように、浅葱が殺さないのなら自分が殺す、と「i」は言う。

そして実際に、狐塚に予告状を送りつけたりするのだ。
狐塚を殺させないようにするには、浅葱が代わりとなる人を殺さなければならない。
そこでターゲットにしたのが月子の親友(でも歪んだ形)の片岡紫乃。
紫乃をターゲットにした時には“?”という感じだったが、八犬伝の犬塚信乃と知った時には「なるほど~」という感じだった。てか、私が狐塚を予想したのも、八犬伝からだったのにそこまで頭が回らなかったよ。
なんとか狐塚を殺さないですんだが、浅葱は精神的に追い詰められて倒れてしまう。

そこで看病した月子は、浅葱が「θ」であることを気付いてしまったのだった。
なんとか浅葱を止めようとするが、カッとなった浅葱は月子を殺してしまう。
そしてそこで月子が狐塚の妹だと知るのだった。
そうしてゲームを終わらせようとするところで、エピローグに戻る。

浅葱は眼を刺されてしまうのだった。
本当はそのまま死んでしまうところだったのを、もう月子が殺された時点で浅葱が犯人と知った秋先生と狐塚によって助けられる。
そして逮捕と至るのだが、では「i」は一体誰だったのか?ということになる。
捜査を進めるうちに、どうやら浅葱が「i」でもあったようだという疑惑が浮上する。

となると展開は読めてくる・・・そう、浅葱はいわゆる多重人格者であったのだ。
一方、月子の方は、発見が早かったためになんとか一命をとりとめることができたが、大学に入ってからの記憶を一切合財なくしてしまうのだった。

記憶喪失になって、読者の私としては最後にでもいいから記憶を取り戻してくれー、そうじゃないと浅葱が可哀想だーと思っていたのだが、この記憶喪失が最後の最後に粋なはからいをしてくれる。

その“粋なはからい”に多いに貢献するのが、今まで割と脇役っぽかった恭司。
実は、最後まで恭司が「i」なんじゃないかと疑っていたのだが、本当に彼はいいやつだった!
殺人なんて本当に、どんな理由があっても許されるべきではないし、本作のようなことはあってはならないことだとは重々承知な上で、不謹慎なことを言うが、本当に浅葱が脱獄して海外に逃げれてよかったーと思った。

「だけどもし、君がいつの日か物凄いピンチを迎えてどうしようもなくなったら、俺は必ず駆けつける。世界中のどこにいても必ずだ。人間には誰でも、大好きで泣かせたくない存在が必要なんだって。
 君が生きているというそれだけで、人生を投げずに、生きることに手を抜かずに済む人間が、この世の中のどこかにいるんだよ。不幸にならないで」

(p560)

という浅葱の最後のセリフを読んで、確かに月子が好きだったのは浅葱じゃないけれども、もう一人の浅葱を通して月子のような存在を得られることができてよかったな、と思った。
とまぁ、虚構の世界の人だというのに、大変な肩の入れようですが、それだけどっぷりつかってしまった本だった。


辻村深月 「子どもたちは夜と遊ぶ 下」 2008年 講談社

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