辻村深月作品には美形が必ず出てくる気がする(今のところ):辻村深月 「スロウハイツの神様 上・下」


順調に読んでます、辻村深月。
今回は一気に上下と読んだのもあるし、上だけではあまり特筆すべきお話がないので、まとめてレビューを書いてみた。

正直の感想としては、面白かったけれども、今まで読んだ中では最下位だなということ。
キャラ一人ずつ出てて良かったし、このような共同生活の話は好きだから楽しめたけれども、だけど。こういう共同生活もののに付き物の“離散”があって、それがあまりに定番というか。ここらで離散しない共同生活物を読みたいな、と思ったので点が辛くなった。

なんというか、辻村深月の魅力はそのどんでん返しっぷりだと思っているのだが、今回はそんな衝撃的じゃなかったし、むしろ全て見え透いていた気がした。
ということで辻村深月の魅力が薄い、という面でもちょっとマイナス。
とダメ出しばかりだけど、きちんと面白かったです、はい。
ただ今までの辻村深月の中では~というお話なのであしからず。


さて今回のお話は、前述したように共同生活もの。
ずばり「スロウハイツ」に住む人々のお話。
そもそもこの「スロウハイツ」は、今売れっ子の脚本家・赤羽環が“環のファンと名乗るおじいさんから、昔旅館として使っていた物件をもらってしまった”という名目上の建物で、そこに環とその仲間達が住んでいる。

まず、大家の環。
そして熱狂的なファンが多く、一番の稼ぎ頭の人気小説家・チヨダ・コーキ。
チヨダ・コーキを発掘し、「チヨダブランド」まで確立させた敏腕編集者・黒木(といってもほとんど住んでないけど)。

環の親友で漫画家を目指している狩野。ちなみに彼の目線で書かれることが非常に多い。

狩野を通して友人になった、映画監督の卵・長野正義。

正義の彼女で画家の卵の“スー”こと森永すみれ。

本書が始まった頃にはこの6人が住んでおり、1室空いているという状態になっている。
話の始めのほうは、各々環に出会ったきっかけについてだとか、空室に以前住んでいた環の親友エンヤの話だとかがずーっとあって、いまいちこの話はどこにいくのか分からない感じがする。
でも良く考えたら、辻村深月の話って、序盤は(というか話の真ん中くらいまで)「一体この話はどういう話なのかさっぱり分からん!」というのが多いので、あまり気にせずに読んでいたら、やっと事件が勃発。

最後の1室に、チヨダ・コーキ小説から抜け出たんではないかというくらい、ロリータの格好した美女がやってくる。
チヨダ・コーキの大ファンという加々美莉々亜はチヨダ・コーキにべったり。
しかも彼女はどうやら『コーキの天使ちゃん』っぽくて・・・という流れになるのだが、ま 得てしてこういう共同生活ものは、新しい人が入ってくることで崩壊へと向かっていくのデス。

それはさておき『コーキの天使ちゃん』とは何かというと、何年か前、まだ皆が全然知り合いでもなんでもなく、環も狩野も正義も一介のチヨダ・コーキファンであった頃。

チヨダ・コーキの本が原因の殺人事件がおき、もちろんのことチヨダ・コーキはメディアの格好のえさとなってしまった。ひどいバッシングでまったく小説が書けなくなった時、毎朝新聞に『私は熱心なファンですが、だけど、生きています。事件を起こそうとも、人を殺そうとも考えませんでした』(p199)と、チヨダ・コーキを擁護する匿名の手紙が届く。
その手紙の主は、黒木たちの必死な呼びかけには答えずに、結局誰か分からずじまいに終わってしまう。

さてこの莉々亜事件以外に、もう一つ事件が起きる。
それはたまたまスロウハイツに投函されていた書類の宛先が読めなくて、環が開けてしまったところから始まる。

その書類はチヨダ・コーキと並んで、今超人気の作家の原稿だったのだ。ということはスロウハイツには、その作家が潜んでいることになる。
その他にもちょこちょこ事件があり―スーと正義が別れたり、スーが一旦家を出たものの帰ってきたり、莉々亜が実はチヨダ・コーキのえげつないソックリ作家だったり、莉々亜が出て行ったり―、最終的には環が渡米するのをきっかけに、皆出て行ってしまう。

そして最後の最後に明かされる、チヨダ・コーキサイドの環との出会いの話には、ちょっとジーンと来て終わる。

ていうか!
皆出て行って欲しくなかったよ!!!
いいじゃん!皆で住んだまま、環の帰りを待てば!!!

確かに前半部分の、事件があっても素通りされていくような、淡々とした感じがたるいとかあったけど、中盤で環のスロウハイツへの思いが分かってきたり、皆のチヨダ・コーキへの愛が分かってきたり、そういうのが良かったのになー
あんな感じで、今までスルーしてきた事件を拾って大きくして、その結果離散っていう形にしないで、ゆるいまま終わって欲しかったなー

というのは完全なる私のエゴですが、それもすべて、キャラが好きだったから。
というかキャラの色々な部分が分かってきて好きになりかけてきた頃に終わっちゃったから。
だから話が終わってしまって、本当に本当に残念だった。


辻村深月 「スロウハイツの神様 上・下」 2007年 講談社

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