小林にいた小学生のランドセルの色は赤じゃなくて黒じゃなくって?:有川浩 「阪急電車」


この本が出た時、私の地元の本屋はお祭り騒ぎのように、この本を店頭に飾りたてた。何せ、私の地元は本書の舞台になった今津線は逆瀬川。阪急電車がモデルの本と聞いて“へ~”と思っていたのが、今津線が舞台と知って驚きを通り越して“なんで!?”となった。何せ、今津線は超ド級のローカル線。しかも沿線上の駅はほぼ寂れてるというオマケ付き。

興味本位で立ち読みしてみれば、そんな面白いと思わず、もちろん単行本だし買わずにいたら…
東京に出てきて、読書会なるものに出てみたら、「阪急電車」のファンがいた!その人に何がいいのか聞いてみたら、ツバメの巣を壊さずに置いてあったりとか、なんだか暖かくていいんです!とのこと。それでなんで面白いと思わなかったが合点がいった。私にとって、彼女が“いい”と思う点は、日常過ぎて『当たり前』なのだ。

と納得して読まずにいたら、文庫化されて山積みになってるし、あまつさえ映画化になるというでないか!
旅行に行くのに手軽に読める本として買ってみた。旅行先で会う友達も、逆瀬川出身で、今は遠くに住んでるので、懐かしがるだろうから、あわよくば押し付けて帰ろうという算段だ。

そしたらね、意外にも楽しんでしまいましたよ。地元から離れてるせいか、一つの架空の物語と認識しやすかったからだろうか。
話の作りが実にうまい。章立てが駅の名前になっていて、宝塚から西北、それから折り返して宝塚に戻る。

電車の中の縁がテーマになっていて、各章ごとに違う登場人物の目線で語られていく。
まずは清荒神の図書館を利用する社会人男性。その人と、よく図書館で出会っていた女性の縁。

南口では、宝塚ホテルでの結婚式帰りの女性。彼女が結婚式に白いドレスを着て行った理由が語られる。

逆瀬川では孫娘を連れたお祖母さんの目線から、その女性との接触が語られる。
お祖母さんに勧められて女性が降りたのが小林。

その次の仁川では、彼氏にDVを受けてて、その異常性に気付いてない女子大生が、その彼氏に足蹴にされ置いてけぼりを喰らう。そこでまたお祖母さんが助言し、別れる決心をする。
と思ったら甲東園の章ではまた迷っている。でも女子高生の彼氏の話を横聞きして、きっぱり決心する。

お次の門戸厄神では、初々しい大学生カップルが誕生する。

そして西北で、それぞれの様子をざーっと流して一区切り。

数ヶ月経ったのが折り返しのお話。
西北では、DVを受けてた女子大生が、その後きっぱり別れられた経緯が、マナーがなってないオバタリアン軍団をきっかけに語られる。

門戸厄神はその軍団の一人で、女子大生の隣に座ったおばさんが、女子大生にアドバイスされる。

甲東園では、女子高生と彼氏のその後の話。

仁川では可愛らしい大学生カップルのその後。

そして小林では、結婚式の彼女が、お祖母さんの助言通り、会社を辞め、しかも小林に住んでるその後が語られる。

しかも、女子大生との縁もできる。逆瀬川では、お祖母さんwith孫娘が、オバタリアン軍団に絡まれ、それを図書館カップルの助けを借りて撃退する。

南口と宝塚は、図書館カップルのその後とそれからで結ばれる。

といった感じで、流れるように章が進んでいくのだ。
ちょっとずつ関わっていく感じが、そしてその度合いがやりすぎにならず、絶妙。
ちなみに私は結婚式帰りの話が好き。

花嫁さんなんかじゃないのよ、お嬢ちゃん。花嫁さんみたいなこの白いドレスで、あたしはあの二人の人生が呪われれと強く強く願いをかけたんだから。

(p38)

という下りが好き。なんか恨み節って好きなんだよな
これは確実に、地元にいながら読むものじゃないな。だって、リアルな駅名とか、これはあそこのことかなというのもあるけど、完璧ファンタジーだもん。それが地元ならよく分かる。
これを読んでからは、逆瀬川の印象もよくなる!…ことはないなぁ。もちろん、逆瀬川は愛着あるし好きだけど、この小説はファンタジーだな。


有川浩 「阪急電車」 平成22年 幻冬舎

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