第143回直木賞の候補作品があがった時に、「候補作品を読んで、受賞する作品を予想してみようかな」と安易に考えて図書館で予約をしてみたのだが。。。
そう思った人が多いのかなんなのか、てかそもそも人気作品だったからか、やっと1冊めぐった時にはとっくの昔に結果が出ていることに。
まぁいいか、ということで、残念ながら受賞を逃してしまった「あの日にかえりたい」を読んだ。
予想外に短編集だったのだが、選ばれるだけあってぐいぐい読めた。
正直、表題作の「あの日にかえりたい」は他の作品に比べて面白いと思わなかったけれども、短編すべてが過去と未来、もしくは生と死が交差する話だった。
それが色々な形で交差していて、単純によくこれだけ思いついたなと感心もしてしまった。
初めて読んだ作家さんだが、著者紹介をみてみると短編が多いらしく、なるほどなと思うくらいの短編ならではのよさが出た作品集だった。
収録されている作品は以下の通り(ネタばれあり);
「真夜中の動物園」
いじめにあっているが誰にも言えない小学六年生の「僕」こと正。やっと夏休みに入りいじめっ子に会わなくて済むと思ったら、今度は両親に勉強しろと迫られる。挙句の果てには父親に「いじめられているのか?もしそうならお前にも問題があるんではないか?」と言われる始末。
家出してしまうつもりで真夜中に出て行くと、ひょんなことで動物園の中に入れる。そこで出会った飼育員のおじさんは怒るどころか動物の案内をしてくれる。それから毎晩動物園に出かける正。
その飼育員こそが未来の自分だったのだが、大人になった自分が子供の自分に出会って変わる、という話はよくあると思っていたときだったので、その反対バージョンに出会えて面白かった。
ただ、この飼育員は「僕」の前で悲惨な最期を遂げてしまうので、必ずしもハートウォーミングな話になってないところがまた興味深かった。
「翔る少年」
主人公の元(小学生)が気づくと見知らぬ公園に来ていた。記憶をめぐらすと、前の晩に父親に学校で書いた家族についての作文をめぐって怒られたことを思い出す。元の母親は新しくきた母親でそれについて書いたのだが、母親がかわいそうだというのだ。
自分が怪我していることに気づいて手当てをしようとした時に、おばさんに声をかけられる。そうしておばさんの家に連れていかれ、手当てをしてもらって、しかも作文に書いた「新しい母親と○○したい」ということを次々とこなしていく。
ふたをあけると「死んだはずの人がそのままの姿で現れる」というシチュエーションの逆サイドバージョン。
つまり、何年も前に北海道で地震が起こり、その時に主人公は死んでしまう。そしてそのおばさんこそが新しい母親だったのだ。
「あの日にかえりたい」
老人ホームにボランティアに来た石橋佳代。そこで偏屈やのおじいさんと仲良くなる。
そのおじいさんの昔話に付き合う佳代。おじいさんは、自分が苦労をかけた上で癌に侵され、自殺した奥さんの、その自殺した日にかえりたいという。
結果的に帰るのだが、自殺をとめるのかと思いきや意外な行動に。
「へび玉」
独身で何がやりたいか分からないまま33歳になった由紀恵。
高校のときにソフトボール部に所属しており、その仲の良かった友達と部活最後の日の夜に、校舎に忍び込んで花火をしたことを思い出す。その時約束したのが、33歳にまた皆でここに集まるということだった。
今日がその約束の日だったので行って、仲間の一人亜由美との約束通り、へび玉を燃やしてみると、来るはずのないその仲間3人がやってきたではないか。しかも皆高校生の姿のままで。
自分ひとりだけがおばさんなのに、なんの違和感も感じないように、昔とまったく同じ会話をする3人。
そして昔と同じく、亜由美の自転車に乗って帰る由紀恵。その時
「あのへび玉……燃やしてくれてありがとう」
(p186)
亜由美の言葉がぽとりと落ちた。線香花火の最後のように。…(中略)…
「みんなはさ」亜由美は呟いた。「由紀恵は来ないんじゃないかって言ってたんだよ」
振り向く。由紀恵は亜由美の顔をまじまじと見やった。亜由美はいつもより少し寂しげな目で由紀恵を見つめ返した。
「だって、うちら四人が来られないことは分かってたでしょう?」
亜由美の頭からゆっくりと何かが伝い下りてくる。亜由美は手袋でそれを拭った。
薄いグレーの指先を鮮紅が彩る。
寒さのだけのしえではない。由紀恵の体は震えた。鼻の奥が痛い。
そうなのだ、四人は死んだのだ。とうの昔に。
と真相(過去)を展開する手法が効果的でよかった。
「did not finish」
ダウンヒルの選手である大黒は、日本のスポーツ界にも見放され、スポンサーもつかないので一人でやっている。色々な人から引退を促されても続けているのは、子供の頃に見知らぬ人から「君は大きくなればチャンピオンになるんだ」と言われて信じているからだった。
しかし競技中に事故でコースからはずれ瀕死となってしまう(ということころから話が始まる)。
その体を抜け過去へ遡っていくときに、その見知らぬ人こそが自分だったことがわかる。なので今度はきっぱりと「スキーはやめるんだ」ということを誓うのだが……。という話。
「夜、あるく」
健康維持のため、夜ウォーキングする亜希子。その時雪が降ったときのみ、中学校の前のハクモクレンの前で佇む老女に気づく。会ったことがないはずなのになんだか懐かしさを感じる亜希子。
顔見知りになって、なぜ雪の日だけ来るのかと訪ねると会いたい人がいるからだという。
なんでもおばあさんは昔、そこで教師として勤務している頃に、交通事故に合ってしまった。
気づいたら事故のあった中学校の前にいて、そのハクモクレンの前には女の子がいた。手首に傷があり自殺者だと分かる。そこで話をしたきっかけで、二人は生還していくのだが、どうしてもその女の子に会いたいのだという。
その女の子の正体というのは言わずもがな。
乾ルカ 「あの日にかえりたい」 2010年 実業之日本社
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