“Effendi”が名前じゃないと気づくのに時間がかかってしまった(不覚!):Orhan Pamuk “MY NAME IS RED”


随分昔のFIGAROで紹介されていた、邦題「私の名は『紅』」。
舞台は訪れたことのあるイスタンブールだし、題材はイスラムの細密画家だし、で大変興味があったのだが、どうせなら英語で読もうと思って月日が経ち。やっと高島屋での洋書セールで見つけて買ってもまた月日が経ち。

やっと手にとって読んでみたら、ものすごく字が小さくてまたまた月日が経ち。
で、一体いつからこの本に関わっていたのかが分からないくらいになってしまった。
はてさて肝心な感想はというと、今までにない形式の推理小説(一応)で非常に面白かった。
こんな書き方もあるのね!という新鮮さ。
それと同時に、自分の頭が固いせいもあるだろうけれど、その斬新さについていけない部分があったりもしたのも事実。

何が面白いかと言うと、各章ごとに違った人物が語り始めるのだが、その章のタイトルが”I AM YOUR BELOVED UNCLE”だったり”I AM CALLED BLACK”だったりと、その語る人物が名乗るような形になっている。

そしてこの語る人物が何も“人”物だけではなく、”I AM A TREE”だとか”I, SATAN”とかある。
なにせトップバッターは”I AM A CORPSE”、つまり殺された死体から始まるのだ。
もちろん死体がいるからには”I WILL BE CALLED A MURDERER”もいる。
そしてこの“語り”の使い方が独特で面白い。
まず、語り手はきちんと読者に語っているのだ。
そして犯人もそれを意識していて

Actually, I know that you’re listening to me even when I’m mulling over matters in private. I can’t afford careless contemplation of my frustrations or the incriminating details of my life. (p119)

と言うように、決して悟られないような語り方をしている。
一応明確な犯人候補が3人いるのだが、その3人が出てくる他の語り手によるエピソードの続きとして、この犯人が語ることになっても、絶対分からないようになっているから天晴れだ。
登場人物が沢山いる、というか語り手が多すぎてまとまりにくい物語であるが、ざっとあらすじを書くとこんな感じ;

本書の最後についている年譜によると、1591年がこの本の舞台らしい。場所はイスタンブール。
一応主格の登場人物である、Black(イスラムの細密画家の中では、こういう愛称で呼び合うのが普通らしい)がイスタンブールへ帰ってくるところから物語が展開し始める。

Blackは従兄弟のShekuraのことを愛していたのだが、それを嫌った彼女が父親に相談し疎遠にさせられたのをきっかけに、イスタンブールを離れていたのだ。
そのShekuraは結婚し息子も2人できたのだが、夫は戦場に出たきり何年も音沙汰がない。
しかも夫の弟が彼女によからぬ想いを寄せているのが発覚してから、実家に戻って父親と暮らしている。

父親はイスラムの細密画家の中でもマスタークラスの人で、美術好きのスルタンよりある秘密のミッションをもらっていた。
それは西洋の技法でイラストレーションを創るというものだった。そしてその最後のページの絵としては、スルタンの肖像がを西洋風に描くというプロジェクトだったのだ。
そこでShekuraの父親(つまりBlackの叔父)が集めた人材というのが、Elegant、Stork、OliveとButterflyだった。

ところがElegantは何者かに殺され井戸に投げ込まれてしまう。
一体誰が殺されたのか…?
そんな時期にBlackは帰ってきたのだが、昔のわだかまりはなくなったかのように叔父に歓迎され、このプロジェクトについて語られる。BlackもShekuraを垣間見れないかと足繁く通っているうちに、とうとうShekuraと密会できるようになるのだった。
ところがその密会の夜にこそ、叔父はElegantを殺した犯人に殺されてしまう。
これでは戦場から帰ってこない夫の家(つまり不貞な義弟がいる家)に連れ戻されてしまう!と危機感を募らせたShekuraは、父親の死を隠して夫と離婚し、Blackと再婚するのだった。
しかしやがて叔父であるマスタが殺されたと知るやスルタンは怒って、Blackに期限付きで犯人を捜せと命令する。

といった感じ。
前述通り、話の構成が面白かったのと(ちなみに”I AM A TREE”とか人間でないものは、細密画家たちが描いた絵)、イスラムの絵画に関する認識を垣間見るのは面白かった。
が!

もうShekuraがムカついてムカついてしょうがなかった。
なんなん!?この女!!?最悪やな!!!Black、もっとしゃんとしとけよ!!!と思ってしょうがなかった。
と文句で終わるのはなんなので、Shekuraの語りの中で好きな言い回しを選んでみた(敢えてShekuraで);

Whatever the cause, Black always remained melancholy. Because I knew that his sadness had nothing to do with his shoulder, I believed that somewhere in a secret corner of his sould he was possessed by a jinn of sorrow

(p49)

Orhan Pamuk, “MY NAME IS RED”, 2001, Faber and Faber Limited

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