受賞作という事実が見事に邪魔したな:中島京子 「小さいおうち」


直木賞受賞作品が割りと早く手に届いたのは、やはり候補発表と同時くらいに予約入れたからか。
とにかく、一足先に「あの日にかえりたい」が来て、次には本書「小さいおうち」と「リアル・シンデレラ」が同時に届いた。わ~い

ちょっと悩んで、受賞作品の「小さいおうち」を先に読むことにした。
好みの問題だと重々承知だが、その上であえて言わせていただくと。
“「あの日にかえりたい」の方が面白かったなぁああああ~”
(この先の感想はネタバレ含むので注意!)



時代背景もいいし(昭和モダンな感じ)、女中奉公の話というのもよかったけれども、これって結局不倫話じゃん!と思うとどうもね・・・
私、本当に不倫話って好きじゃないのよね。だってどっちに転んでも不幸ってのが、不毛すぎて読む気になれん。そこに表れる身勝手さがどうも頂けぬ。

そして、なに?最終的にレズ的要素もあるんですか?と思うと、またちょっとげんなり。
不倫する奥さんに恋慕の情を抱く女中って構造が、どうも美しく感じない。
例えば、美しい未亡人が亡き夫と新しい男との間で揺れて、その奥様に憧憬の念を抱く女中という図の方が、ずっとすんなりいく。というか、そういう奥様なら恋慕の念を抱いてもいいかもしれない。
それなのに、この奥様ときたら、贅沢好きで、不倫もし、と何がいいのかさっぱり。
女学校の同級生が「何か惹きつけられる」と言っているけれども、ただそういう外からの言及があるだけで、その魅力についての記述がないもんだから、まったく実感が得られない。
と酷評してしまうのも受賞作品、ということで期待してしまったからか。

もう一つ気に入らない点があって、物語の構成に関わるところなので、ここでざっとあらすじを書いてしまうと。
物語は女中奉公の経験のあるお婆さんの覚書のような形態をとって進められる。
内容は2番目に奉公にあがった平井家での生活の話。
そこの奥様は前の旦那様との間に息子がいて、まずそこに主人公のタキは奉公にあがったのだが、最悪亭主はすぐ事故死。奥様は再婚することになり、タキと一緒に平井家にお嫁入りすることになったのだった。

二人目の旦那様は仕事人間で、婚約時の約束通り洋風の家を建てる。
そこでの生活は、タキにとって一番幸福な時代だった。
ある時、会社で新しく入った若者が遊びにやってくる。
と“若い”男が生活に介入したところで推測できる通り、彼と奥様が不倫関係に落ちるのだった。

そんなストーリーラインで、タキの回想が現在に戻ったりするのだが、それによるとタキはノートに回想録を書いているみたい。
それで甥っ子の次男がそのノートを盗み読みをしているらしく、ケチをつけられ、それに文句を言ったりする。

そしてそれが私が気に入らない部分なのだ!!!
文句から回想がまた始まったりするパターンが多いのだが、それがなんともね……。ネガティブから始まる回想って……とひっかかってしまう。
回想は第二次世界大戦が始まり、別れ別れになってしまって終わる。しかも唐突に。
最終章は大人になった甥っ子の次男が物語を引き継ぐ形となり、トキ婆さんの語られなかった過去を探る旅で締めくくられるのだが、これも蛇足的な感じがしてならなかった。
こういう回想録の後日談ってよっぽど上手く書かないとこける、というのが持論なのだが、本書はクリアできてなかった気がする。

と、文句たらたらになってしまったが、決して面白くなかったわけではないのであしからず。
ただ期待値がやたらと高くなってしまっただけだったのである。多分再読したら、結構楽しめる気がしないでもない。


中島京子 「小さいおうち」 2010年 文芸春秋

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