ちょっと外に持ち歩きにくい表紙絵だった:姫野カオルコ 「リアル・シンデレラ」


続けて読み終わった直木賞候補作品の「リアル・シンデレラ」。
なにせ後がつかえてるから、さっさと読んでまわさないとかわいそうだからね。
ガーファンクルの“Mary was an only child”が最初と最後に引用されているが、それを下敷きにしたかのような作品だった。
そして何よりも面白かった!何せ平日なのに2日で読み終わってしまった。
主人公の泉(せん)は本当にピュアな人として描かれているのだが、これって相当難しいのではないかと思う。
だってこれだけピュアな人って、他の人には理解しずらいから、偽善的にうつったりうそ臭くみえたりしてしまう。でも本書はそこがうまく描けていて、リアリティがある上に、泉が嫌な奴にうつらない。
多分、“聞き語りをまとめた記事”という特殊な手法を使ったからのような気がするが、それにしてもその筆力に脱帽である。
さてあらすじはというと;


冒頭部分は泉について記事を書くいきさつから始まる。
「シンデレラって果たして本当に幸せになったのか?」という議題から、本当に幸せだった人ということで泉を取材することになったのだ。

泉は諏訪生まれの諏訪育ち。
宿舎を経営する祖父母の初孫として生まれるのだが、残念なことに祖父は生まれる前の日に、祖母は生まれた当日に亡くなってしまう。
娘である泉の母親は、泉のことを疫病神のように感じるのだった。
そして泉に妹が生まれる。名前は深芳。泉とは違って、非常にかわいらしく、そしてか弱かった。
もちろん両親の愛はすべて深芳に注がれる。それに比例するかのように、“長女だから厳しく育てなくてはいけない”という名目のもと、泉はつらくあたられることになる。
そして折り悪く、誰も泉の誕生日に気づいてくれなかった時に、唯一気づいてくれた母親の兄(つまり泉の伯父)が、誕生日だからといって泉をつれまわしてくれたのだが、その夜、昼間の酒の飲みすぎがたたのか脳溢血で亡くなってしまう。
「お酒を飲むのをなんで止めなかったのか」と泉をなじる母親。

高校にあがる頃になると、諏訪の名士である片桐様の提案で、そこに下宿することになる。
泉のことをすっかり気に入った片桐様は、自分の息子と結婚させようとするのだが、実は彼は、違う人と結納まで済ませていた深芳と恋人の関係で、二人は駆け落ちして東京に逃げてしまう。
それでも気にしない泉。ただ一心に家の事業である宿屋「たから」の新企画を打ち出すのに精を出す。
深芳と片桐様の息子は結局破局を迎える。
そして泉は、深芳の元婚約者と結婚するのだが、本当に彼女はそういうのに興味がなかった為、すぐ別居状態になる。

そして旦那は、新しく入ってきた従業員と恋仲になり、離婚することになる。
とまあ、そういった調子で、泉の周りだけ幸せになっていって、泉自身は『かわいそう』な立場にばかりいる。

でもそれは周りの人の傲慢な気持ちからなるもので、畑を耕したり、わらじを作ったり、子供たちと遊んだり、とそれらを楽しんで、やりたくてやっていたのだ。
そして泉の純真さというのは、泉が小学生の時に“秘密にがっかりして”、「自分なんていなくなっても誰も困らない」と嘆いている時にテンに似た印象の人が突然現れて泉にこう告げるところに表れていると思う(というのはその人が泉の想像の産物っぽいから);

みな同じざんす。そうりだいじん死んでも世の中は困らない。ボクシング世界チャンピオン死んでも困らない。さいざんす。生きて生まれてきた者は全員さいざんす。これあまねく平等。なぜあなた、自分だけ選ばれたごとく嘆くざんす? …(中略)…
その人、その人いなくなると、その人じゃない人困らせるために生きてない。生きてる人、生きてるから生きてる。 …(中略)…
 あなた、あなたない人の靴を履いてはいけない。あなた、あなたの靴で生きてるあいだ歩きなさい。さらば、あさにけにかたときさらず、ハッピ過ごせるざんす。ハッピの人のそばにいる人、いやな気分にならない

(p364-365)

さらには、この人が泉に願い事を3つかなえてくれると言ったのだが、その時お願いしたお願い事が

1.妹が丈夫になりますように
2.大きくなったらお母さんとお父さんと離れて暮らせますように
3.自分の周りにいる自分じゃない人にいいことがあったら、自分もうれしくなれるようにしてください

というのだが、そこにも泉が幸せであったという証がある気がする。
なぜなら、テンのような人にそれをお願いすることによって、意識が働いて、現に泉は『願いがかなった』と言っているのだ。そしてこの願いがかなったとしたら、(特に3)そりゃあ “ハッピ過ごせる”と思うからだ。
最後に泉はふっと姿を消すのだが、それがまた象徴的で、それでいて泉の幸せがいつまでも続いているような気がしてまたよかった。


姫野カオルコ 「リアル・シンデレラ」 2010年 光文社

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