ひたすら建物の絵というのがまたいい:江國香織 「ホテルカクタス」


この間友達に会った時に、面白かった本を言い合っていたら「江國香織の『すきまのおともだちたち』が『ホテルカクタス』っぽくて面白かったよ~」と言われたので、「『ホテルカクタス』って面白いの?」と聞いたら、「絶対読んだことあるよ!面白かったって言ってたもん!」と強く言われてしまった。
そして軽くあらすじを言われたけど、まったく覚えていない。
さっそく「ホテルカクタス」と「すきまのおともだちたち」を図書館から借りてきて「ホテル~」から呼んでみたら。

うん、読んだことあったわ。
最初の一文ですぐ思い出した。

未来の私のために、もう一度図書館に行って借りなくてよいようにさらりと説明すると、ホテルカクタスはアパートの名前。
そこに帽子ときゅうりと数字の2が住んでいて、彼らはお友達。
そして注意しなくてはならないのは、これは彼らのあだ名ではなくて、本当に“帽子”と“きゅうり”と“2”だということ。

話自体は何か劇的なことがあるわけではなく、この3人(といっていいものなのか…)の交友関係が淡々と「です・ます」調で、おとぎ話のように綴られているだけ。
一応、この“一緒に住むもの”の定石にしたがって、最後にはばらばらになってしまう。
ついでにこの3人の人物像に触れると、帽子はニヒルなハードボイルド的な人で、本を沢山持っていて、亀を飼っている。きゅうりは田舎から出てきた青年で、常に体を鍛えていて、ガソリンスタンドで働いている。2は14の父親と7の母親から生まれ、なにせ2だから割り切れないことは嫌い、そして役所に勤めている。
何気にこの数字の2が好きで、特に;

 その晩、自分の部屋に戻ってベッドに横になった数字の2が、ひさしぶりにやすらかで幸福な気持ちだったことは、言うまでもありません。気に入りの、水色の毛布にくるまって、のびのび―まるで、数字の1のような恰好になって―眠りに落ちました。

(p26)

というくだりが好き。
気づいたら江國香織作品は随分久しぶりで(何せこのブログに出てきていないんじゃないかなぁ)、無菌無毒な感じが、久しぶりだと新鮮な気がした。
特に童話調だから、休みの日にごろごろしながら読むのに丁度よかった。


江國香織 「ホテルカクタス」 2001年 ビリケン出版

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