カステラを食べたくなったけれど、コンビニに売ってなかった:森見登美彦 「四畳半神話大系」


アニメを一度だけ見て、えらく面白いなと思ったのに、気付いたら終わっていた。ならば原作を読んでみよう、と思っていたので、長く電車に乗らなきゃいけないのに本を忘れた!という時に買ったのが「四畳半神話大系」。
丁度京都に行く際に買ったので、偶然にしてはぴったりの人選ならぬ本選だった。
森見登美彦氏の本は、通算3.5冊目だが、途中で挫折した0.5の「きつねのはなし」以外、大変楽しく読めた。
この格式ばった文体でコメディータッチの物語を書くというのは、私のツボなんだと思う。だから、コメディー色の薄い「きつねのはなし」は文章が固いだけで眠い私の好みに合わなくて挫折してしまったのだとも思う。

今回の「四畳半神話大系」にしても最初から“ぷっ”である。

 大学三回生の春までの二年間、実益のあることなどなに一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。

(p5)

好きだなぁ~ この口調。
物語の構成自体も非常に凝った造りになっていた。
全四話でできているのだが、同じ主人公・同じ登場人物の違った話になっている。
主人公は京都の大学三回生(おそらく京都大学)で、ある組織から抜け出した状況にあるのは総て同じ。
その組織に入った時のエピソードが必ず入るのだが、いわく、新入生時に興味を魅かれたのが、映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という個性的なチラシ、野球サークル「ほんわか」、そして秘密機関の<福猫飯店>であった。

つまりこの話は、各々のサークルなり組織なり弟子になったりなど、異なったシチュエーションの物語である。
でも大筋はほぼ一緒で、腐れ縁の妖怪じみた小津が出てきて、組織から離れた顛末が語られる。
途中で占い師に将来を占ってもらって、「コロッセオ」というキーワードをもらう。
小津が橋の欄干に立った時に、大量の蛾が発生。
蛾が大嫌いな明石さんをかばってあげ、それをきっかけに恋が結ばれる、というあらすじになっている。

それが色々なシチュエーションで、でも上記の布石はすべて網羅して語られる。
登場人物は同じであれど、立場が微妙に違っていたり、そうかと思えば、一つ前の話の顛末が、その話の中の登場人物の裏設定として成立していたり、と妙に絡み合っている。
そして最終話で、前三話がつなぎ合う形となる。
正直、最後のつなぎ合い方は無理矢理な感じがしないでもなかった。
そして、布石の部分の文章はすべて同じなので、一気読みしようとすると飽きる、という難点もあることにはあった。

でもその仕掛けは目一杯楽しめた。なにせ読めば読むほど、“あ、これはあれにつながるのか”という発見があるのだから、推理小説に通じる楽しさがある。
しかもその仕掛け抜きにしても、一話単品でも十分楽しめる(ただし最終話は前三話読まないと分からないけど)というのも、この作品の魅力の要部分だと思った。
アニメを改めて見たくなった。


森見登美彦 「四畳半神話大系」 平成20年 角川書店

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