やっぱり猫っていいな:ロバート・A・ハインライン 「夏への扉」


本交換会で「のぼうの城」と交換してもらったのが、本書「夏への扉」。
普段SFをなかなか読まないのだが、“愛猫と一緒に冷凍睡眠に入ったはずが、目を覚ましてみたら猫がいない。どこに行ったのか!?と猫を探す話”と聞いて、私が苦手な宇宙が舞台になっているわけでもないし、SFなのに猫探しというところが気になって交換してもらったのだった。
読んでみたら正確には猫探しではなかったのだが、非~~常に面白かった!!!
まず、書かれた年代(ついでに訳された年代)が古いせいか、妙にレトロな感じで、それが非常にツボだった。

これは紹介された時に言われたのだが、今であったら“メイドロボット”なんて風に呼ばれそうなところを、文化女中器(ハイヤード・ガール)なんていう単語が使われていたりする。
さて肝心な話はというと、舞台は1970年。といっても私たちの知る1970年ではなく、アメリカでは六週間戦争があったりだのと、現実はちょっと違う世界となっている。
要約してしまうと時間旅行の話になっていて、主人公30年後、つまり2000年にやってくる。
もちろん1979年に書かれた2000年なので、現実と随分違うのだが、そもそも1970年時点で現実と違うのだから、“本当の2000年はこんなんじゃないのに”と揚げ足を取ることもなく素直に読める。それが本書の賢いところだと思った。

主人公は非常に優秀な発明家で、文化女中器なんてものを発明してヒットさせたりしていた。
彼自身は根っからの技術者なので、友人と共同経営という形をとり、営業のほうは友人にまかせていた。事務員として雇った美しいベルとも結ばれ、順風満帆だと思っていた矢先、この二人に裏切られてしまう。
ついには生きがいである職まで追われ、酒浸りになる日が続いていたのだが、ふと冷凍睡眠をすることを思い立つ。

愛猫のピートと共に冷凍睡眠の手続きを取り、実際に冷凍睡眠に入る前に一言二人に行ってやろうと出かけていったのがまずかった。ベルに謀られ洗脳される薬を飲まされ、そのまま冷凍睡眠に入らされてしまう。もちろんピートは一緒ではない。
30年後、目が覚めると。。。

冷凍睡眠に入る前に、友人の先妻の連れ娘で、仲良くしていたリッキーに元・自分の会社の株を託していたのだが、それを調べるとどうやら、上手く手に渡っていないようだった。
なんとか職について、リッキーを捜すのだが、そんな中で、自分の頭の中にあった設計とまったく同じ構造をしている製品に出会う。
特許を見てみるとなんと自分の名前が!
どういうことかと思っていると、ひょんなことからタイムマシーンが極秘で存在していることを知る。
タイムマシーンを発明した博士を訪ね、けしかけて30年前に逆戻りしてしまう。
そうして、今度は色々準備して、ピートと共に冷凍睡眠に入ることになれば、リッキーともちゃんと約束を取り付け、また訪れた30年後にはめでたしめでたしとなる運びだ。
このタイムマシーンによる時間の考察でなるほどな、と面白かったのが;

(30年前に戻った時点で、タイムマシーンを発明した博士に出会うシーンで)
だが、ようやく気を取りなおして考えれば、一九七〇年代に生きていた人間のうちで、およそ彼ほど怖がらなくていい人間はいないわけなのだ。そうだろう、ぼくはまだ彼になにもしていないのだから……ぼくが彼をおそれることはないわけだ。いやそうでない、ぼくは未来において彼を怒らせたのだから、過去の現在はまだ……いや……。もうやめた。うまい言葉になりっこない。将来、時間旅行が一般化したら、英語の文法の時制は完全に新しい時間旅行用の変化をつけ足さないと役に立たなくなるだろう。

(p280)

英語で読んだらもっとニュアンスが伝わっただろうな。訳者もさぞかし訳すのが大変だったろう。
派手派手しい話ではなかったけれど、それだけに面白かった。
よく考えたら「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー」が好きだったんだから、好みに合ったんだろうな。


ロバート・A・ハインライン 「夏への扉」 福島正実・訳 1979年 早川書房

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