とりあえず東のたくましさにはびっくり:高橋克彦 「霊の柩(上) 心霊日本編」


本交換会で「竜の柩」を交換した時に1・2巻のみ頂いて、「読んでみて面白かったら言ってくださいね。今度3・4巻持ってくるんで」と言われたので、厚かましくも1巻読んだ時点で3・4巻を頼んでみたところ、「今度3・4巻と続編も持っていきます」と言って頂いた。
『続編!?』と思っていたところに持ってきてくれたのが、この「霊の柩」だったいうわけ。
「竜の柩」で無事にタイムマシーンで現代の日本に帰ってこれたと思ったら、残念なことに大正8年の日本に着いてしまったのだ!
この大正という、とんでも遠い過去(平安時代、戦国時代、江戸時代)でもなく、微妙に遠い過去というのが“うまいな~”と思わせた。
この程良い過去のおかげで、タイムトラベラーと歴史の問題が克明になったからだ。例えば東が;

「もし……ドイツに渡ってヒトラーをわれわれが暗殺したら、何百万ものユダヤ人捕虜の命を救える結果になるかもしれません。戻れないと決まったら、そういう生き方をしませんか」
「歴史を無視してか?」
 虹人は東を見詰めた。
「知らない顔をして生きて行けそうにない。ここは過去の世界でも、俺にとっての明日はやはり未来だ。そっちを大事にしたい。ヒトラーを殺せば、そもそも戦争さえもなくなって永い平和が続くかもしれない。」

(p173)

というのは、この過去が現代(21世紀)に影響するくらい、まだ21世紀が引きずっている過去だからだと思う。
さて話の筋はというと、なんとか大正から現代に戻ろうと画策した虹人は、この当時流行った超能力・霊能は<神>
つまり宇宙人たちのコンタクトがあったのではないか?と仮説をたてる。そうであれば、イシュタルに是非会って、もう一度タイムマシンに乗せてもらおうとする。

そのために予言者という宮崎虎之助(実在していた人)に会いに行く。そこで霊に関するヒントをもらって、霊にこそ会ったらいいのでは?ということになって、イギリスへ渡ることにする。
そこで出資者を募ると、家具の買い付けを行っている島村に出会い、彼には事情を話すことになる。
ひょんなことから、中国人マフィアの孫娘・明鈴も伴ってイギリスへと出航するところで上巻は終わる。

本書の何が印象的って、江戸川乱歩に出会うシーンだった。
宮沢賢治にも出会うのだが、それは虹人たちが予想していたところもあって(何せ宮沢賢治の知り合いのフリをして難を逃れたりする)、そこまで驚きではなかった。
ところが江戸川乱歩に関してはまったくの不意打ちで、しかも向うから話しかけてくるのだ。
だんだん話していく内に、“この人はひょっとして……?”となるのだから感動といったらなかった。
虹人と一緒にタイムトラベルした気分になって、本当に“胸が震えるくらい”感動したのだから、そのシーンの描写は絶品だった。というか、多分作者も江戸川乱歩が好きなんだろう。そうじゃないとこんなワクワクするような文章にならないと思う。

今度はコナン・ドイルのいるイギリスというのだから楽しみ!
というか明鈴絡みで一波乱ありそうだ。


高橋克彦 「霊の柩(上) 心霊日本編」 平成15年 祥伝社

コメント

タイトルとURLをコピーしました