ペンネームの由来が知りたい:汀こるもの 「パラダイス・クローズド THANATOS」


久しぶりに読んだメフィスト系列の本「パラダイス・クローズド」。
書店で“死を招く者と探偵の双子”というようなあおりを見つけて、面白そうだなと思い図書館で借りて来た。
読後の印象はというと、まぁ作者の『汀こるもの』という奇怪な名前に表されているような内容だった。

“死を招く者と探偵の『双子』”というところで想像できるであろう、割と漫画的な内容でもあった。
そもそも、この双子とその付き添いの刑事(一応主人公)しか目立たないこと極まりない。

何せ双子は、そんな特殊な性質を持つ上に美青年っていうんだから(そして性格も個性的)、双子ばっかり焦点が当たる。だから推理小説ではあるまじきことに、殺された人も“この人ってなんだったっけ?”という状態。犯人にだって“だからこの人って誰?”という状態だもんだから、誰が犯人でもさして問題がない有様。
そんな状態だからあらすじを書くと、至ってシンプルになる;

双子の兄・美樹には死を招くという特殊体質を持っている。行く先々で(身内も含め)人が死んでいく。
その影響ですっかり立派な高校生探偵になってしまった弟・真樹。
美樹の存在はネットでも暴かれてしまい、それも理由となって警察が御目付役をすることになっている。その白羽の矢が当たったのが高槻。

美樹はひきこもりなのだが、大変なアクエリスト。
同じくアクエリストの推理小説家に招かれて、小説家が所有する無人島に建つ屋敷にやってくる。というのはその屋敷には“モナコ水槽”があるからだった。
モナコ水槽のなんたるかはメンドイので端折るが、要するに人間が餌をやったりと世話することなく、海と同じような生態系で循環していく水槽のことらしい(多分)。
そうやって“モナコ水槽”につられてやって来てしまったのだが、もちろん殺人事件が起きる。

そこには他の推理小説家が招かれていて、屋敷の主を筆頭に次々と殺されていく。
孤島、電気も消されて離島状態、しかも嵐、というお約束なシチュエーションなのだ。

でも他の推理小説と違うところは、探偵役のはずの真樹が謎ときのシーンで、密室のトリックを暴くのを“拒否”するのだ。
「何にせよ、今ここにいる皆さんは生きてるわけなんだから。謎なんて解けなくてもどーでもいいじゃん。トリックなんてどーでもいいじゃん。命あっての物種。とりあえず生きてりゃ密室なんてどーでもいいじゃん。」(p201)なんて言う始末。
そもそも主人公の高槻もまったく推理小説を読まない人で

金田一のじっちゃんの方が落ち武者伝説を聞いて鍾乳洞ダンジョンを右往左往したり、男前だが頭のネジが二、三本外れた変人探偵が金持ちのお屋敷だの洋館だので今どき誰も知らないような宗教や土着の風俗習慣や脳生理学に関する蘊蓄を垂れながら、死んだコマドリのためにカラスがお経を読むとかいう見るからに聞くからにシュールな内容の海外の子守歌になぞらえた密室殺人の謎を解いたりするのが本格ミステリというものらしい。
 この館というのが曲者で、忍者屋敷のごとき隠し通路や隠し扉、地下の拷問室、座敷牢は標準装備。土壁に人間の死体が塗り込められていたり、部屋や館自体に人間を殺せるようなギミックが仕込まれていることもある。大体が正気を失い、非業の最期を遂げた建築家だの悪趣味な大富豪が金に飽かせて造ったもので、消去法など気にしていては始まらないそうだ。(p43-44)

といった態。
推理小説でいながら、推理小説に罵詈雑言(は言い過ぎか?)を述べるのは、それはそれで面白かった。

ただ前述したとおり、問題点の方が目に着くのも確か。
でもミーハーな私としては、その双子のキャラ設定は割と気に行ったので、その双子を読む為にも何冊かシリーズを読んでみようと思う。


汀こるもの 「パラダイス・クローズド THANATOS」 2008年 講談社

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