登場人物の名前がユニーク:西崎憲 「蕃東国年代記」


本書が店頭に並びだしてから、ずっと気になっていたのが、例によってなかなか行動に結びつかず今になった。
表紙からして和風ファンタジーのようだし、「蕃東国年代記」というタイトルもなにやら十二国記に似てるものを感じて(実際は『記』しかかぶらないけどね)、わくわくしたのだ。

ところが、なにやらかわいらしい表紙絵とは裏腹に、割とブラック、というよりシビアな物語だった。
連作となっているのだが、本自体が薄いのにも関わらず長く感じる作品だった(つまらなくて長く感じるというわけではなくて)。

タイトルの通り“蕃東”という国が舞台になっており、ユニークなのが蕃東が別世界に位置しているのではなく、日本と中国の間の島国という設定なのが面白い。
なので歴史的にも日本と中国から影響を受けており(でも日本のほうが近いらしく影響度も大きいらしい)、章の合間合間にまことしやかな蕃東に関する資料が挟まれているのが面白い。

私の乏しい読書遍歴からするに、このように架空の国が現実の世界に存在しているファンタジーってあまりない気がする。
それとも、蕃東国の歴史のなかで日本の平安時代のような時代をかき集めている、という態だから、架空の動物や魔物が出てきても純粋なファンタジーというよりも、夢枕獏の「陰陽師」っぽい感じなのかもしれないが。

収録されている作品は;

「雨竜見物」

貴族の宇内が主人公。長続きする雨の原因が竜の孵化だという話が出回り、それを見物することとなる。
その湖には河蜘蛛という魔物が住んでおり、人を襲うという。

宇内の一向が湖に行くと、貴賎問わず老若男女多数の人が押し掛けていた。その中には反帝の貴族もいた。
皆が竜が現れるまで湖の周りで余興を楽しんでいると突然河蜘蛛が現れ、その反帝の貴族をさらっていってしまう。
宇内の側近・藍佐が問いただすと、違う人の足に河蜘蛛の糸がひっかかっているのを見つけて、件の貴族に掛け直したという。

「霧と煙」

霧という泥棒の話。
舟合わせという、いわゆるボートレースが人気を博した頃。

ある時の舟合わせの最中に、突然嵐がやってくる。参加者は多数流され、その中で一つの船の中で様々な人が乗り合わせる。
女性、貴族、商人、平民らしき人、と乗り合わせ漂っているうちに、限界に達する。その時に奇妙な生き物が現れ、それぞれの大事なものをくれたら水もあげるし、船も陸地に送るという。

それに承諾して陸地に戻され、さて取られそうになる、という瞬間に別の魔物が現れ、あっさり退治してくれる。

やれやれ、と陸地に立ち、ふと気付くと持ち物がなくなり、しかも平民の姿がない。その平民こそが“霧”と呼ばれる泥棒だったのだ。

「海林にて」

海林というところへ藍佐が主人の使いでやってくる。そこは中国や日本から輸入品が集まるところなのだが、藍佐は新しい法律を伝えるという嫌な役を割り振られる。

つまり、新しい法律によって税が高くなり、一念発起して渡航した者にすれば、帰って来た途端ほとんどを取られるというわけだった。
その後藍佐は二人の男と出会い、食事をしながら面白い話をする。

ところが話が終わって蓋を開ければ、一人は食い逃げしてしまい、もう一人は税として搾り取られた人で、藍佐を殺そうと付けて来た人だった。

「有明中将」

有明中将というまことに美しい貴族がいた。誰もが尊敬してしまうような美しさで、その有明中将に死をかけてまで中将を愛した二人の人の話。

「気獣と宝玉」

宇内が若い青年だったときの話。
宇内の幼馴染で絶世の美女がいたのだが、この二人は友達のような仲だった。

ある時、その幼馴染の命令で、彼女の父親が開いた一斉見合いみたいのに参加するハメに陥り、そこでうっかり宝玉の場所を知っていると言ったものだから、それを捜しにいかなくてはいけなくなる。

話の大半はこの宝玉(3つ)を捜す冒険物語。長編にしても面白そうな話だけれども、こんなあっさりした冒険物語もそれはそれでありだと思った。


西崎憲 「蕃東国年代記」 2010年 新潮社

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