フェルメールの良さがいまいち分からない人へ(3/4)


フェルメール作品の独自性について

と、ここまでフェルメール人気の外的要因ばかりを語ってきましたが、もちろん、フェルメールの作品自体にも、その人気の理由はあります。

特に日本での人気の理由は次の2点なのではないかと思います。

  • テーマが日常生活となっているので、西洋画によく見られる宗教画やギリシャ神話を題材にしたものものよりも馴染みやすい
  • 小さいサイズの作品が多いので見やすい

が、テーマといいサイズといい、それ自体がフェルメール独自のものではありません。
むしろ、フェルメールが活躍した17世紀のオランダにおいて、日常を描いた風俗画のジャンルが宗教画よりも主流でしたし、フェルメールのサイズも一般的でした。

そんな中で、他の画家にはなくてフェルメールにあった独自性は何か。
それがずばり、フェルメールの特徴となっている、です。

まずについて。

フェルメールと同時代の画家で、フェルメールも多大な影響を受けたヘラルト・テル・ボルフ(1617-1681)とピーテル・デ・ホーホ(1629-1683)の作品と比較しながら見てみましょう。

テル・ボルフ《手紙を書く女》マウリッツハイス美術館
フェルメール《手紙を書く女》ワシントン・ナショナル・ギャラリー

左がテル・ボルフ、右がフェルメールの作品で、フェルメールはこの作品を描くのにあたってこのテル・ボルフの作品を参照したと言われています。
テル・ボルフは群衆を描くのが一般的だった風俗画において、このように1人で過ごす姿を描くという画期的なことを行い、フェルメールにも影響を与えます。

2つの作品を並べると、同じ方向からの光の当たり方、同じ体の向き、同じ所作なのに、印象が大分違うことが分かります。
テル・ボルフの方がスポットライトがあったように女性に光があたっているのに対し、フェルメールは穏やかな光に包まれています

次にデ・ホーホと比べてみましょう。

デ・ホーホ《訪問》メトロポリタン美術館
フェルメール《紳士とワインを飲む女》ベルリン国立美術館

右側のフェルメールの作品は、先ほどの《手紙を書く女》よりもドラマチックな光のあたりかたのように見えます。
が、左側のデ・ホーホの作品を見ると、フェルメールの方が光の優しさを感じます。
デ・ホーホの方が陰影のコントラストが強く、よりドラマチックですよね。

フェルメールの包みこむような光の秘密は、フェルメール特有の光の描き方によるようです。
《紳士とワインを飲む女》をズームして見てみましょう。

左側のドレス部分にある三本線に細かい光の粒があるのが見えるでしょうか?
こうした細かいハイライトだけではなく、袖にも白っぽいピンクで細かい光の粒が描かれています。
右側の椅子でも、飾り部分のハイライト部分だけではなく、背もたれ部分にも光の粒が描かれているのが分かります。

デ・ホーホと比較してみましょう。

デ・ホーホの作品の方にもチラチラとした光が見えますが、光の粒というよりもハイライトであることが分かります。

ハイライト部分だけではなく、光が微妙にあたるところにも光の粒を描くことで、きつい陰影のコントラスを出さず、穏やかで、それでいてキラキラとした印象を与えることができるのです。

この技法こそがフェルメール作品の最大の特徴で、フェルメールが「光の魔術師」と称される要因となります。
是非、フェルメールの作品を見る機会があったら、光の粒を探してみてください。

因みに、当時のオランダ絵画において、テル・ボルフやデ・ホーホのようなスポットライトがあたったようなドラマチックな光の演出が主流でした。
これはイタリアの巨匠、カラヴァッジョの流れを汲むもので、同時期のレンブラントもこうした光の演出を行っています。

以下、オランダの同時期の画家たちの作品を見てみましょう。

これらの作品を見ると、光の演出の違いだけれではなく、色彩においてもフェルメールは独特なのが分かると思います。
ということでについてです。

レンブラントの作品を見るとよく分かりますが、フェルメール以外の作品って何となく茶色っぽくないですか?

それに対してフェルメール。

この作品、《青いターバンの少女》とも呼ばれる通り、フェルメールっての印象が強いのです。
フェルメールブルーとも呼ばれるくらい「フェルメール=青」のイメージです。

なぜそこまでフェルメールに青のイメージがつきまとうかと言うと、もちろんフェルメールが青を多用していたことになりますが、逆に言うと、フェルメール以外の画家はをあまり使っていなかったということになります。

当時、絵具は今のようにチューブに入っていたわけではなく、鉱石などを砕いて作っていました。
その中で青の原料であるラピスラズリは大変高価なものでした。

画家たちは作品を制作する際に、依頼人とラピスラズリをどれくらい使うか、誰が調合するのか、といったことを取り決めていました。
こんな取り決めをするのは、金とラピスラズリだけだったので、いかに高価だったのかが分かります。

つまり、青は気軽に使える色ではなかったのです。

それなのにフェルメールの作品の多くに青が登場します。上の3作品以外にも青が印象的な作品が多数あります。

ここでフェルメールの謎がまた浮上します。
なぜ、フェルメールは高価なラピスラズリを多用できたのか?
はっきりとした理由は分かっていませんが、フェルメールの義理の母が裕福であったというのが大きな理由でしょう。ちなみに、フェルメール没後すぐ、フェルメールの妻は破産申告をしているので、やはり経済的負担も大きかったのはうかがえます。

このように、フェルメール作品は同時代の画家たちのなかで異彩を放っていたのがよく分かります。
光の演出が当時の主流通りではなく、しかもそれが成功していた、ということと
他の画家がなかなか使えなかった青をふんだんに使い、しかも効果的に使用していたということがあいまって、同時代の画家たちのなかでひときわ輝いて見えるのでしょう。

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