もう一度「屋根裏部屋の秘密」を読んでみたくなった:青木富貴子 「731」


これまた「読みたい本リスト」を消化しようと読んだ本、「731」。
731部隊のことは、子供の頃に松谷みよ子さんの「屋根裏部屋の秘密」を読んで知った。それまで小学校では“原爆”や“空襲”といったような被害者としての戦争しか教えてもらってなかったので、日本軍が行ったことを初めて知って大きなショックを受けたのを覚えている。

というわけで、誰だったか忘れたけれど、どなたか(もしかしてまたもや三浦しをん?)のレビューを読んで、読んでみようと思ったのだった。

が、正直、ちょっと散文的な気がして読みずらかった。
なんだろう…青木富貴子さんが調査していく過程も書いてあるのだが(つまり完全なるレポートのようになっておらず、青木富貴子さんが関係者に会ったりするシーンが出てくる)、その過程の部分と事実の部分が割とごちゃごちゃしてた気がする。少なくとも一行空けての段落変えとかしてくれたら読みやすかったかもしれないのに…

それはそれで、内容は知らない事実ばかりだったので面白かった。

本書は731部隊が行ったこと、というよりも、終戦直後の731部隊にスポットが当たっている。
もちろん、731部隊の成り立ちや戦争中の活動(といっても具体的な内容はほんのさらり)も描かれているが、それらよりも、アメリカ軍にどのように知られたのか、又、ソ連とアメリカの731部隊の研究結果をめぐる攻防がメインとなっている。

ここに本書の内容を書こうとしても難しいので、まず驚いたこと一点を。
それは、731部隊が東京裁判で裁かれなかった、ということ。よく考えたら、それだからこそ闇に葬られたのだろうが…

 戦争当時の日本国民は遠くは満州からベトナム、シンガポール、南太平洋の島々や南西諸島、沖縄などにまで広がった戦場で、どんな戦闘が起こっていたか、まったく知らされていなかった。…(中略)…
 「東京裁判」では初めて日本軍が残虐行為を働いたことが訴えられた。…(中略)…帝国陸軍は「アジアの解放」のために身を捧げていると思っていた国民にとってみれば、寝耳に水とはこのことだったにちがいない。…(中略)…
 もっとも、東京裁判ではここで裁かれたことばかりが問題なのではなかった。裁かれなかったことの方が、却って問題なのである。その筆頭が石井部隊の細菌戦であったことはいうまでもない。

(p233-234)

731部隊が闇に葬られた背景には、どうしても731部隊のデータが欲しかったアメリカ軍が、なかなか口を割らない隊員たちに“免責”を条件にレポートを提出するまでに至ったのだった。
そして、東京裁判にかけてしまうと証拠品としてレポートが全世界を相手に提出されてしまうことになるので、アメリカ軍としては独占するためにも東京裁判にはかけないように暗躍したようだ。

特に、ソ連軍に捕まってしまった隊員が、ソ連軍の執拗な尋問により口を割ってしまったが為に、ソ連軍が731部隊の内容を知ってしまい、アメリカ軍へ石井隊長を尋問させるよう要請した時は、冷戦時代に入ったいたこともあって、石井隊長などにソ連へは口を割らないよう厳命するくらいだった。

このレポート、日本が戦争に負けたという時点で、上層部から総てを燃やすようにと言われたのに、石井隊長がそれを守らずに持って帰ったもの。
なんでも731部隊の活動は天皇陛下にも、果ては東条英機にも秘密であったようだ。そんな訳で陛下に類が及ぶのを恐れた上層部や731部隊の幹部クラスの人たちは必至で秘密を守ろうとするのだった。

結局は、良心の呵責に責められた隊員がソ連の尋問に耐え切れずに口を割ってしまうのは、731部隊の残虐性や、アメリカとソ連の攻防といった政治性のなかで、唯一人間的だった気がする。


青木富貴子 「731」 2005年 新潮社

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