諸行無常の響きあり:吉川英治「新・平家物語2」

この前借りた吉川英治の「新・平家物語」があまりに汚く(なにしろ、あるページに毛のついた鼻くそがはさまってた!!)、なにか他にないかと思いつつ、吉川英治全集を探してみると・・・ ぶっといせいで誰も借りないのか、新品のように美しい!!ということで実際に読んだのは、「新・平家物語」第二弾のはずなのに、また(一)だったりします。

新院と麻鳥の話から始まりました。もう歩けない新院を負ぶう麻鳥。
本当に新院がかわいそうでかわいそうで仕方がありませんでした。流される時も、父上のお墓のあるお寺の前で、一目お墓参りをさせてくれ(結局新院はお葬式にも出られていない)、と頼むのですがそれも許されず、罪人の乗る輿の中から手を合わせるしかできないのです。

そして、心を平安に保たれようと流された先で始めた写経を、そのお寺に奉納しようとしても、新しく権力を握っていた信西により、却下されてしまいます。もちろん都から訪ねてくる人もいないし、便りもありません。

そんなおかわいそうな新院のもとに、役人の目を盗みながらやってくるのが我が麻鳥なのです!!新院とのお約束を果たすべく、月夜の中、笛を吹くのです・・・・(ちなみに、写経を拒否され、怨霊となるのはこの後)

しかしもって、この信西というのがむごい。ただでさえ保元の乱は、家族が二つに分かれて戦うため、悲しみがつきまとうのに、それに追い討ちをかけるように、信西は身内に処分させるのです。

ことに、為義・義朝が悲しい。為義は息子の義朝を頼って来るのですが、義朝の嘆願もむなしく、信西は義朝に為義を討つように命じるのです。

自分の手ではできないと配下にやらせるのですが、そこのシーンの為義のセリフが身をつまされるようでした;

『そうか』と、この帰結を、大きく受けとるような、返辞だった。
 しかし、輿の外に、すわり直して、一言、こうはいった。
『なぜ、義朝は、それをわしへ、いえなかったのか。いえない気もちも察せられるが、父の心とは、そんなものではない!……』
 語気を強めたここで、さすがのかれの満面は、急に下る涙となって―
『そ、そんな、小さな親の愛。せまい料簡の父と、為義を、見ていたのか。―幼少、母の乳をはなれ、父のひざに、とりついて、この父の顔を、見覚えてから何十年。……まだ……まだ、この父の、心の隈ぐままでは、分からなかったか』
…(中略)…
『……義朝よ。それ一つが、残念だぞよ。世は、泡沫といえ、深い深い宿縁の、子ではないか、父ではないか。―こうと、なぜ、胸を割ってくれなかったぞ。いかに、零落したりといえ、為義は、親心までを、路傍に捨てて、お身を頼ったわけではない。……是非なければ、それもよし。父子、今生の一夜を、心ゆくまで、惜しみもし、語りもして、別れたものを……』

p265

そうなじられた義朝ですが、信頼につくことで運命が変わってしまいます。
保元の乱後に政権を握った信西は、次々の容赦のない政策を行います。それのため、反感を買うことになり、信西が目をかけていた清盛が熊野詣りに行ったすきに、信頼は義朝を味方につけて挙兵するのです。信西を討つだけならまだしも、おこがましくも上皇・天皇を幽閉して自分が天皇のようにふるまってしまうのです。もちろんそれに反感を抱く人も多々出てくる中で、その知らせを聞きつけて清盛が戻ってくるのです。

こうして平治の乱が起きたのですが、信頼がどんどんダメになっていく様がすごい。しかし武士として、『義をつがえて、ひとたび盟を陣にむすんだ以上、心変わりをしないのは、累代弓矢に生きる源氏のならいだ。』(p353)と言って、義朝は果敢にも平家に弓を向けるのでした。

結果的には教科書通り、義朝の負け。次々の源氏一門はとらわれ、処刑されていきます。

特に頼朝のところがかわいそう。というか、頼朝のあどけなさがかわいい。それでいて、子どもながらに武士の一門、しかも棟梁の家の子、としっかりと心得ているのがいじらしい。

とらわれた時も(頼朝は、父親や兄たちと逃げる中、眠くなってしまってはぐれてしまった);

『童よ。痛かったか』
『…………』
『どこへ行く。都から東国へ行くか』
『…………』
『父は何者だ。お汝(こと)の父は』
『…………』
 何を訊かれても、答えなかったが、父はといわれると、ぽとんと涙をこぼした。そしてその涙のあとも乾くまで、なお黙りこくっていた。
 宗清は、声に、威嚇をこめて、
『答えろっ。答えぬと、痛い目にあわすぞ』
 と、まゆをいからして見せた。
 すると頼朝は、かえって、その小さい両の肩を正して、おとなの顔へ水をかけるようにいった。
『おまえはたれだ。おまえこそ、馬を降りてものをいえ。わしは平家の下侍(げざむらい)などに、馬上から何か訊かれるような者の子ではない』

(p395

この宗清が池ノ禅尼に、頼朝のいじらしさを訴えたところから始まり、頼朝は助命されます。

この巻は、義経たちの母親である常盤が清盛の寵愛を受けて、藤原長成の後家へと嫁ぐところでおわります。

しかし!この頼朝云々の話が終わってからが、結構読みづまりました。やっぱり清盛の話になると、どうしてもどうしても・・・ くっ
やっぱりどうしても、感情移入できない清盛でした。

(吉川英治 「吉川英治全集・33 新・平家物語(一)」 講談社 昭和42年)

コメント

  1. ????????? より:

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