Hairsprayが舞台の場所出身で、しかも人種差別を受けてたとは!:Robert K. Wittman “Priceless: how I went undercover to rescue the world’s stolen treasures”

母が新聞の書評かなんかで見つけて“面白そうよ”と教えてくれ、どうせなら英語で読んでみよう!と思って買った“Priceles”。
FBI×美術、ということで私にとってどんぴしゃの本だった。
しかも本当の話。

作者のRobert Wittmanは美術泥棒を専門にしていた元FBI捜査官。
なんでも美術品の盗難というのは、麻薬などに比べたら軽視される傾向にあり、FBIでも美術専門の捜査官は彼しかいなかったらしい。
非常に印象的なのが、FBIで美術泥棒となると映画のようだけれども…というくだりで

But art theft is rarely about the love of art or the cleverness of the crime, and the thief is rarely the Hollywood caricature…Yet nearly all of them had one thing in common: brute greed. They stole for money, not beauty. (p15)

のっけから“美術泥棒”への夢想を砕き、現実を教えてくれる。
本書に出てくる捜査は大体覆面捜査(undercover)によるもので、Wittman氏はディーラーのフリをして被疑者に近付く。
交渉などを経て実際に受け渡しまでこぎつけるのだが、この美術品が盗品であるということを売人が知っていた、という証言を得なくてはいけないので、巧みに誘導する。
交渉もさりながら、ここがまたスリリング。

しかも後からテープのバッテリーが切れてしまっていたことを知って、後日、また同じような発言をさせなくてはいけない、というハプニングもあったりして更にスリリング。

確かに美術をめぐる大捕り物話も面白かったけれども、Wittman氏の人柄も好意の持てるもので、彼の人生だけでも十分読み応えがあった。
それは私が日本人であるということも関係しているのだと思うのだが、なんとWittman氏の母親は日本人なのだ。
しかも敗戦後にアメリカの軍人と結婚し、アメリカに渡ってきた、という経緯を持つ。
そんな訳で子供の頃は差別されたりもしていた。
FBIのテレビ番組と、近所に住むFBI捜査官が優しかったという要素も手伝い、FBIに憧れるようになる。

紆余曲折を経てやっとFBIになれたところで苦難は終わりではない。
大親友だった同僚を自分が運転する車で亡くし、しかも飲酒運転の疑いをかけられ、何年間か裁判にかけられることになるのだった。

たしかに覆面捜査官といえば、Bad Guysとつるみ仲良くなり、そして最後には裏切る、という人なのだから“すごくいい人”なわけではないだろう。
それが正しいことではあるといっても、仲良くなった仲間を“裏切る”ことができるくらいの冷徹さはなくてはいけれない(そうしないとミイラ取りがミイラになってしまう)。
でもWittman氏は麻薬取締やマフィアの取締よりも、美術というマイナーな分野を選び、しかも“犯人を捕まえる”というよりも“美術品を安全に確保する”に重きを置いた、というところに人柄の良さが出ていると思った。

結局それは人と仲良くなる、に結びついているのだろうけれど。
私が好きだったエピソードの一つに、ネイティブ・アメリカンの頭飾りを売る人との話がある。
アメリカでは鷹(falcon)の羽を売ることは法律違反らしいのだが、ネイティブ・アメリカンの頭飾りはだいたいその羽でできている。
その頭飾りの売人に近付くのだが、その人と意気投合して大変仲良くなる。
もちろん最終的には捕まるのだが、捕まった後でその売人からの手紙というのが;

Dear Bob: I don’t know what to say. Well done? Nice work? You sure had me fooled?
We’re devastated, and I guess there’s the idea. But, even though we’re devastated, we enjoyed the times we spent with you. Thanks for being a gentleman, and for letting us have a pleasant Christmas and New Year’s. If you hadn’t done what you did, they would have brought in someone else to do it, and I don’t think we would have found him as personable as we found you. So there’s no blame involved. We just have a lot of facts to face.
This letter is neither a joke, a scam, an appeal nor a message containing anything other than what it says. Best wishes, Joshua Baer. (p.140)

息が合ったというのもあるのだろうけど、これだけ言わせるなんて!

最後の難関の物語、Gardner Museumのレンブラント、フェルメールなどの作品を巡る捕り物劇は結局失敗に終わってしまう。
失敗の原因は、よくある話で、いわゆる“組織”の問題。
結局、Gardner Museumのケースでは色んな組織が介入することになってしまい、Wittman氏は容易に動くことができなかった。

まずその絵に近付くための重要人物として、マイアミ在住のフランス人。このフランス人は、フランスの警察がずっと捕まえたくて手ぐすねを引いている人物で、Gardner Museumの情報をもたらしたのもフランスの警察。

次に、Gardner Museumが位置するボストンの支局の人たち。
フランス人が住んでいるのはマイアミ。
Wittman氏自身はフィラデルフィア支局の人。
お互いが自分が統轄して自分の成果としたい。

とにかくWittman氏は絵画を保護するのを第一優先としているので、順調にフランス人二人と仲良くなり信頼も勝ち得たのに、周りが(特にボストンが)やいのやいの言って、Wittman氏は退陣せざるを得なくなってしまう。
でも他の二人はWittman氏以外と取引したくないと言う。
とまぁ、天下のFBIが情けないくらいお互いが足を引っ張り合いながら、結局おじゃんになってしまうのだ。

Wittman氏はというと、これ繋がりで違う美術館の盗品を救いだすのに成功したものの、フランスの警察が、関係者には“WittmanはFBI捜査官”と分かるような報道をしてしまったが為に、覆面捜査官としての生命線が断ち切られる。

丁度退職の時期が迫ってたからいいものも…
この事件が解決していたらお話としてはドラマチックだったが、現実はうまくいかない。
そんなのもひっくるめて色々と教えてくれた本だった。


Robert K. Wittman “Priceless: how I went undercover to rescue the world’s stolen treasures” 2010, Broadway Paperbacks

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