私も関西出身なので栃木と茨木の違いがよく分からず、栃木県民と茨木県民に怒られてた:高殿円「トッカンVS勤労商工会」

そういえば「トッカン」の続編が出たんだったわ、と思い出して、図書館で予約して借りた「トッカンVS勤労商工会」。
めちゃくちゃ面白かった!!!

「トッカン」も面白かったので、借りた途端わくわくそわそわして、読み始めたら一気、すぐ読み切った。
読みやすいのもあるけれども、主人公のぐー子がもがきながらも乗り越えて行くのが快感であり励まされる。

今回は鏡特官の出番があまりなかったけれども、鏡特官の同郷の友達というのが出てきて面白いこと。
前の巻よりも面白い人物が沢山出てきて次の巻も期待してしまう。


物語は自殺を発見するという衝撃的なシーンから始まる。
発見したのは自殺した男の妻。丁度その時に勤労商工会の弁護士・吹雪敦がやってきたことで、話が膨らんでしまう。
呆然とする妻に、自殺の原因は税務署からの厳しい督促が原因なのでは?なんでも鏡という人は恐喝まがいのことをするというので苦情があちこち出てるんですよ、ということを言う。
結構最後の方まで、この吹雪は鏡に怨みでもあって陥れようとしているのかと思っていた。

が、実際は違っていて、それが吹雪を妙なキャラクタにしている。
彼は本当に「正義の味方」になりたいが為に、御大層なキャリアと家柄に合わない勤労商工会の弁護士になっているのだ。

そんないきさつで鏡が訴えられるかも…という危機に陥るのだが、何せ相手は国。多分訴えられることはないだろうという話だが、それでも心配なぐー子。

でもそんなぐー子の心配もどこ吹く風で、鏡は出張やらでほとんど事務所にいない。
そこに強力な助っ人として現れるのが、鏡の同郷の幼馴染というジョゼこと本屋敷真事と里見輝秋。
ジョゼは「ナポリターナなんだ!」と奇天烈なことを言っているが実は弁護士。
鏡には「ほっといてくれ!」と言われたらしいのに、ぐいぐい首を突っ込んでくる。
もちろんぐー子は自分の業務もあり、しかも一人前になりつつあるので一人で仕事をこなしていかなくてはいけない。

そんな時に新メンバーの碇に仕事を頼まれるのだが、それが割と大変で、署長やら後輩はるじいを巻き込みつつ、途中で挫折しそうになりつつ、それでも危機一髪で助かるという、これだけでもなかなか面白いことが起きたりなんかする。

鏡のことと自分のことに奔走するぐー子に吹雪敦は何度となくコンタクトを取ってくる。
結構助言なんか言っちゃったりもするし。
鏡の悪口を言いながらも、なぜ自分が弁護士をやっているのかなどなど語ったりして、すごい接近よう。

その時にぐー子に語ったのがこれが印象的だった;

「人は生きるために体裁を作るし、それは知らないうちに垢のように身をつつんでいく。外聞や体裁が、人の身を守ることだってあるでしょう。だけど、垢が固まって皮膚に沈着するように、体裁も知らないうちにその人の薄汚れた皮膚そのものになってしまう。そうするとね、どんどんと素顔とは別の物になって、誰もその人の素顔を知らなくなる。だって、他人から見える自分は体裁なんだからね。素顔なんて知るはずない。体裁を作りすぎた人間の行く先は二つだ。自分自身すら素顔を忘れてしまうか、それとも素顔との距離感に苦しんで狂うか」(p206)

ぐー子は鏡のことで奔走するだけではない。

ジョゼたちが調べていくうちに、その自殺した男の妻の方がきなくさくなっていく。
結局自殺の原因というのは、“鏡にどなられてそれを苦に…”というものではなくて、自分が自殺することによって保険金を出し滞納金を支払おうとしていたのだ。

問題となっていた自殺直前に鏡に会った、というのは、自分が死ぬまで生命保険の差し押さえをやめてくれ、と頼みに行ったのだった。それを鏡が断った、ということで慌てて自殺した、というのが真相だったのだ。
この後に吹雪が嫌みを言いに来た時、ぐー子が吹雪に言い放つ罵声も壮快;

「体裁体裁って、被害者ぶって。だったらあんたはどうなのよ。公務員が嫌い?国家賠償法に守られて傷つかないか…?あんたこそ、たんに公務員バッシングしてれば味方が増えるから、叩きやすいやつを叩きたいだけじゃない。あんたは武器を手に入れて、それを使ってみたくてウズウズしてる子供と同じよ。うまく市民の味方っていう体裁を作り上げているけれど、中身は人を攻撃したくて仕方がない馬鹿よ。
この、体裁弁護士!」(p296)

体裁弁護士ってなんだそりゃ?って感じだけど、ぐー子らしい。

鏡さんの元奥さんが出てきてもやもや…なんてのも最後にちらりと出たりなんかして、ますます次の巻が待ち遠しい!


高殿円 「トッカンVS勤労商工会」 2011年 早川書房

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