前作の「しゃばけ」の散々文句言っておきながら、二巻目「ぬしさまへ」を借りてみた。
“さて読んでやるか”と偉そうな気分で読んでみたら、結構面白かった。期待値が低かったから?それとも作者が上手くなったから?などと、やっぱり「お前は何様か!?」という感想を持っている。
それはそうと、やっぱり主人公の若旦那の顔は手越になってしまう。そしてそれが嫌でいやでしょうがない!!! 昔からそうだけど、発想が単純にできているせいか、読書時の頭の中のビジュアルは、基本的に挿絵だとかドラマ化・映画化されているものならそのキャストに支配されてしまう傾向がある私。だから、思い入れのある本とか、これから読もうと思っている本に関しては、ドラマや映画を観ないようにしているのだが・・・。今回の場合は完全なるアクシデントで、テレビをつけた時にしばらくそれが「しゃばけ」だと気づかなかったというわけだ。うううう・・・
別に手越君に特別な恨みを持っているわけではないのだが、だってさぁ、あれはミスキャストだと思うんだよねぇ。だってだって、どう考えても手越君は病弱に見えないじゃないか!!!お顔なんてふっくらしちゃって、いかにも健康的だよ!
それはさておき本題に入ると、今回は完全なる短編集となっており、6作収録されている。
「ぬしさまへ」
実は白沢である美男子の手代、仁吉の袂にあった付け文。手が汚すぎて文字の判読が難しいということで、病の床について退屈している若旦那の暇つぶしにと解読してみさせる。などとしていたら、その手紙の主が殺されてしまった! 一瞬疑われた仁吉の潔白を証明する為に、若旦那は妖を使って謎解きをする。
「栄吉の菓子」
若旦那の幼馴染で菓子屋の栄吉。菓子作りは好きなのに腕はまったく上がらず、その不器用さは天才的と言ってもいいくらい。そんな彼が作ったお菓子を若旦那はよく買ってあげいるのだが、若旦那以外に文句を言い言い買ってくれるご隠居さんがいた。そのご隠居さんが栄吉の作ったお菓子を食べて死んでしまったというから、二重にも三重にも栄吉がか可哀相な状態になる。簡単に疑いの方は晴れるのだが、実家では親戚の者が集まってやんや言われるというので、長崎屋に居候することとなる。そんなこんなで若旦那が推理することになるのだが、容疑者は複数出てくる。
「空のビードロ」
珍しく若旦那の腹違いの兄が主人公。若旦那が生まれたことで長崎屋と縁を切り、血のつながらない両親の家からも出て奉公に出ている。その奉公先も決していい所ではないけれども、明るく暮らしている。そんな奉公先にて猫が殺される事件が起きる。事件はすぐ解決するが、それはショックな結果となり、更に彼に好意を見せていた奉公先のお嬢さんの腹黒さを知り、その上に火事に見舞われる。自棄に起こしそうになった時に助けてくれたのが、偶然拾ったビードロの根付だった。火事の後、それを落とし主と思しき所へ届けに行くと・・・
「四布の布団」
若旦那の布団から女の泣き声がする。ところが不思議なことに妖である手代や、若旦那を懇意にしているその他諸々の妖も、その正体をつきとめられない。それが発端となって、若旦那のその布団は新調した物だったのだが、注文した内容と物が違う。翌日、砂糖より甘い父やと手代を連れて抗議に行ったところ、そこで布団屋の主人のひどい癇癪を目の当たりして倒れる若旦那。その若旦那を寝かそうと次の間の襖を開けると、そこには番頭の死体が!
「仁吉の思い人」
江戸の夏の猛暑のおかげで、あの世に片足どころか半身どっぷりつかってしまったような若旦那。薬を飲むのもままならず、困った手代の佐助が「仁吉がふられた話」を餌になんとか飲ませようとする。それにつられた若旦那はなんとか飲み下すのだが、それで語られる1000年も続く仁吉の片思い話。
「虹を見し事」
いつも若旦那の身の回りにいる妖たち。その姿がある日突然消えてしまう。その上、いつもうっとうしいくらい若旦那の世話をやく手代も、若旦那が悲鳴を上げてもやってこない。どうもおかしいと若旦那は色々試すが状況は変わらず、いよいよ夢の世界にいるのかと思う始末。結局は夢でもなんでもなく、妖たちの作戦で、若旦那につきまとう怪しい気配をおびきよせる為だったのだ。
妖である手代の行動を”人間と感覚が違うので突拍子もない言動が多い”と表わされているが、そこまで奇抜ではないので、もっと妖怪らしくてもいいのになぁ、などなど難癖を最後までつけてしまったが、最後の最後に可愛い鳴家と若旦那の会話より;
若だんなの膝の前に歩んできた鳴家たちが、小さな両の手を着物にかけて、嬉しそうに顔を見上げてきた。
p56
「どいつもこいつも、九兵衛が死ねば喜ぶ手合いばかり。良かったですね、若だんな。下手人は選り取り見取りですよ。これで事は終わりますね」
「人殺しは一人に絞らないとまずいんだよ。そうでないとこの一件は収まらないのさね」
「大人数じゃいけないなんて、そりゃあ贅沢な考えで」
鳴家から説教をするように言われて、若だんなは時の間、言葉を失ってしまった。
「と、とにかく日限の親分に納得してもらうには、一人きりの下手人が必要なんだよ」
そう若だんなに言われれ、仕方がない。妖達はまた金食い虫達を調べに走ることとなった。離れの寝間に疑問を一つ残して。
「親分さんは、饅頭はいちどきに三つも四つも食うくせに、何で下手人は一人が好きなんですかね?」
答えを知っている者は、お江戸中探してもいないに違いなかった。
(畠中恵 「ぬしさまへ」 2003年 新潮社)
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