子供の頃はまった本に「若草物語」がある。多分自分が三姉妹で、四姉妹のお話と少しかぶるところがあったからだと思う。
でもその「若草物語」よりももっとはまったのが、“「若草物語」のイギリスバージョン”というのがうたい文句だった(確か)、「丘の上のセーラ」から始まるシリーズだった。
四人が順番に主人公となるシリーズで、総計4冊出版されている。でも実はこれで終わりというわけではなくて、続編が出るのが想定されていたのだが、続編は全然出ないで今に至る。
心の隅で気にしていたものも、すっかり忘れていたのだが、ふとこの間思い出したら最後、もう一度読んでみたくなった。
というわけで第一巻”Sarah’s Story”。
Sarahは四人姉妹の中の末っ子。他の3人と歳が離れてもいる。
話は母親が亡くなり、服をすべて黒く染めるシーンから始まる。これがなかなか印象的で;
Tonight was worse than any nightmare. She could not pretend tonight that her body was lying imbed upstairs. Sher knew it was here, in the kitchen, shivering on a stool. while Annie, like a witch at her cauldron, took the brightly coloured garments from pile on the table and dropped them one by one into the bubbling copper on the range. One by one, the happy colours became the dreary black of night until only the garment reminded.
p7
視覚的に印象的なシーンから始まるのは、Sarahの絵画へのコンプレクスを暗示しているようだ。というのはうがちすぎだろうか?
冒頭で孤児になってしまったFrances、Julia、Gwenの姉妹は、牧師さんを後見人としてthe Quantock Hillsに住み続けることにする。その牧師館には姉妹と同じ年頃の少年たち、Gabriel、Geoffery、Antonyと女の子Lucyがいて、まあ想像できるようにそれぞれ恋い慕うようになる。
主としてGabrielとFrancesの恋の行方が描かれるのだが、それはSarahもGabrielのことを慕っているからであって、巻を追うごとに実は後の二人の少年たちにもPurcell家姉妹とのロマンスがあったことが分かる。
私の記憶では、誰と誰がひっつく(というかロマンスがある)というところまで覚えていたけれども、SarahがこんなにGabrielのことが好きだったということは、全く覚えていなかった。
ただおぼろげに、Gabrielはかっこいいお兄ちゃんで、非の打ちどころがないようなのに、それにFrancesだって好きなはずなのに、なぜか彼女は彼に反抗したりなんかしてはがゆい、というのは覚えていた。たぶん、歳のせいでしょうね。実はSarahだってGabrielのことが好きだったってことに気づいたのは。
物語は、第一次世界大戦に巻き込まれて、一人は亡くなり、一人は怪我を負い、一人は精神が荒んだりなんかするのに、ものすごいドラマチックに展開することもなく、割と淡々と進む。
基本的にSarahの成長物語で、上の3人の姉たちが母親に似て絵の才能があるのに対して、全くその才能がないSarahが、自分の才能を他の方面で見つけて最後にはOxfordに行く、というのが話の筋といえば筋。
別に“才能がなくて葛藤して、それを乗り越えて開花する”というようなシーンが書かれているわけではなく、逆にそのテーマは第一次世界大戦や牧師館の兄弟との交流の話に隠れてしまっている。でも、Sarahの視線があまりに鮮やかで、Sarahが姉たち(特にFrances)へ抱いている劣等感が手に取るように分かる。
さすがに好きな話だけあって、あらすじはあらかた覚えていたけれども、Sarahの描き方に舌を巻き、風景の描写に感嘆した。
「若草物語」よりもマイナーな話で、内容的にもメジャーになるような物語ではないけれども、大人になってもふと思い出してしまうとは、子供の頃の私の琴線に触ったんだな、とつくづく思う。それでまた読み返しても面白い、と思ったというのは、つくづくいい本に巡り合えたな、と思う。
(Ruth Elwin Haris “Sarah’s Story”, 1986, Candlewick Press)
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