阿媽の娘“月銀”ってきれいな名前:小田 嶽夫 「城外」 in 「芥川賞全集 第一巻」

しばらく忘れてた芥川賞作品読み。
寝たいが洗濯機が終わらない、その時間潰しに読み終わってしまった。

第3回目は昭和11年上半期の「城外」by小田 嶽夫。

主人公は文学に傾倒しつつも、中国は杭州の領事館の書記生としてやってきた「私」。
彼の外国で感じる疎外感、阿媽(女中のこと)との関係、日本への憧憬が描かれている。
一応事件もあって、阿媽が病死しそうになったり、国民革命軍が領事館を襲ったり、彼が上司である領事と喧嘩したり、そして最後は日本に帰る、と考えてみたら結構イベントあったのね、という感じなくらい、淡々と書かれている。

淡々と、というよりスケッチ風と言えるかもしれない。

あとでWikipediaで調べてみたら、彼自身が杭州の領事館にいたらしいので、臨場感というかリアリティがあるのは、それのおかげかな、と思った。

全然話は違うが、この時代、難しい漢字がガンガン出てきて、漢字好きな私としてはちょっと嬉しい。

例えば;

(中略) おそらく私が長い生涯を送ると仮定して、その旅の最後の終りに過ぎてきた跡を追懐して見る時があるとするならば、その一と時の生活は崇高な燦爛たる金色を放って私の眸を眩暈<げんうん>させるかも知れない。

p103

なんて別に斬新な表現ではないけど、文句なくかっこいい(私にとって)。

中国人と中国語で語る時は、漢文調になっていて、なるほど、こうやって外国語を表現することもできるんだな、と思った。ま、ほぼ中国語限定だろうけど。

そんなわけで、割と短い話だったけど、物語云々というより雰囲気が好きな作品だった。

(小田 嶽夫 「城外」 in 「芥川賞全集 第一巻」 昭和57年 文藝春秋)

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