そもそもなんで甲斐姫が表紙絵なんだろう:風野真知雄 「水の城 いまだ落城せず」


和田竜が新作を出したのをきっかけに、Amazonを徘徊していたら、「のぼうの城」と同じモチーフの時代小説があるのを知った。それが「水の城 いまだ落城せず」。しかもこちらの方が先らしい。
ってことで興味を持ったのでいそいそと図書館から借りてきてみたのだが・・・
う~ん
表紙から分かる通り、「のぼうの城」とあまりに読者のターゲットが違った。ずばりこちらは

オジサン対象(だと思う)。
そもそも読み比べる為に読んだのだから、あえて「のぼうの城」と比べさせてもらうと、「のぼうの城」は人物に焦点が当たっているのに対して、こちらは“戦”に焦点が当たっているといえよう。
なにせ、人物の魅力という点で言えば、あきらかに「のぼうの城」に軍配があがるのだ。
そもそも主人公の成田長親が全然違う。

今、「のぼうの城」を人に貸してしまって手元になくてはっきりと分からないが、確か「のぼうの城」の“のぼうさま”は体格のいいお人だったと記憶している。でもこちらの長親は背が低くて貧弱な体型らしい。
しかも“のぼうさま”はどこか得体がしれなくて、ぼんやりと非凡な感じだが、こちらは農民や商人に気軽に接する温厚で、思いやりがあって、何せ彼が籠城中に心がけたのは

いつも城の皆に顔を見せているということだけだった。わしの顔がゆとりの窺える表情であったら、城の者も安心できるであろう。…(中略)…幸か不幸か、わしは気持ちが正直に顔に出るらしい。だから、すぐに城の者に見破られてしまうだろうが、それも覚悟のうえで、とにかく顔を、衆目にさらすように心がけた。

(p340-341)

という実に人徳ありそうなおっちゃん、って感じだったのだ。
ってそう!長親はおっさんなのだ!!!本書では!!!
しかも正木丹波もおっさんだし、「のぼうの城」でお気に入りだった柴田和泉守なんて、序盤で逃げていなくなってしまってるのだ!!!

どちらが史実に忠実か、というのはさておき、う~む ここからして自分はターゲットの読者層から外れてるな、という気がする。

あとちょっと気にいらなかったのが、石田三成が非常に無能に描かれていること。
私は吉川英治みたいに、敵も味方も平等に描くスタイルが好きなので、これはちょっと頂けなかった。
確かに「水攻め」は彼の失敗だったけど、「のぼうの城」のように、“豊臣秀吉の水攻めを間近で見た時から水攻めにあこがれを抱いていた”という設定が前面に出ていた方が納得できたような。
ま 好みの問題も大きくあると思うが、「のぼうの城」の方がエンターテイメント性においても良かったな、と認識させられる一冊だった。


風野真知雄 「水の城 いまだ落城せず」 平成12年 祥伝社

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