久しぶりに少年探偵団が読みたくなってしまった:江戸川乱歩 「日本幻想文学集成⑭ 江戸川乱歩」


以前読んだ、谷崎潤一郎の「白昼鬼語」にて江戸川乱歩の「押絵と旅する男」が言及されたので読んでみた。
比較をされていたから比べてしまうが、私は谷崎潤一郎の「白昼鬼語」の方が面白かったな、と思う。

借りたのが短編集になっていたので、書き連ねてみる。

「押絵と旅する男」

主人公が列車の中で、押絵細工を持った老人に出会う。
その押絵細工には美しい女性と年老いた老人が居て、その二人について物語ってくれる。
いわく、その老人は彼の兄だという。兄は覗き絵の押絵の女に恋してしまい、中に入ってしまったというのだ。
先述したとおり谷崎潤一郎の方が好きだったが、列車の中で老人より、不思議な話を聞く(しかも主人公は蜃気楼を見に行った帰り)というシチュエーションが良かった。こんな感じ;

外は全く暗闇になつてゐた。窓ガラスに顔を押しつけて覗いて見ても、時たま沖の漁船の舷燈が遠く遠くポツツリと浮んでゐる外には、全く何も光もしなかつた。際涯(はてし)のない暗闇の中に、私達の細長い車室丈けが、たつた一つの世界の様に、いつまでもいつまでも、ガタンガタンと動いて行つた。そのほの暗い車室の中に、私達二人丈けを取り残して、全世界が、あらゆる生き物が、跡方もなく消え失せてしまつた感じであつた。

(p13-14)

「目羅博士の不思議な犯罪」

主人公の「私」は探偵小説家(乱歩自身なのかも)。ある日、見知らぬ男から彼が犯した犯罪の物語を聞く。
彼は、そこに引っ越してきたら必ず自殺する、という部屋と、眼医者の目羅博士の関連性に気付く。そして目羅博士をおびきよせ、博士を殺したというのだった。

「パノラマ島綺譚」

乱歩作品の中でも特に有名な作品だと思う本作品。読んだ気がするが、ほとんど覚えていなくて、筋が進むたびに「ああ、そうだった」てな感じ。読んだのか、読んでないけど有名だから筋をなんとなく知ってたのか。
主人公の貧乏書生・人見広介は大学の同級生だった菰田源三郎が死んだことを聞く。
この二人は学生時代に友達にからかわれるくらいそっくりだった。ところが片や貧乏なのに比べ、菰田は資産家だった。
そこで人見は、自分がかねがね願っていた芸術を完成させるため、菰田になり済ますことを思いつく。
そうしてなり済ました人見は、島を買い取って奇妙なパノラマ島を創るのだった。

「一人二役」

妻子持ちの遊び人で、戯れに別人になり済まして、夜妻の寝どこにもぐりこむ。
そうするうちに、初めは戸惑っていた妻も、その架空の男(本当は夫なのだが)に恋に落ちたようなのだった。

「木馬は廻る」

貧しい廻転木馬のラッパ吹きの話。
他の作品のように奇妙な話ではなくて、ひょんな時にお金を手に入れてしまって…という小話。
全体的に言うと、江戸川乱歩と言ったら奇妙な話・怖い話、とあって、特に「パノラマ島綺譚」なんて本領発揮といった感じだった。

でも谷崎の耽美と奇妙の融合、みたいな物語を読んでしまった後だと、そっちの方が面白かった。「パノラマ島綺譚」も、谷崎の耽美がちょっと入ってたら、もうちょっと面白かった気がする。私見だけどね。

あと、「嵐が丘」と同時進行で読んだせいで、ちょっと存在が薄くなってしまった。これは私のせいですがね。申し訳ない江戸川乱歩!


江戸川乱歩 「日本幻想文学集成⑭ 江戸川乱歩」 別役実編 1992年 国書刊行会

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