“浅葱”って言葉の響きも色も好き:辻村深月 「子どもたちは夜と遊ぶ 上」


前作2作が面白かったので(正確には「ぼくのメジャースプーン」の方が本書より後っぽいが)、「子どもたちは夜と遊ぶ」を手にとってみた。
冷たい校舎の時は止まる」と似た雰囲気を感じ、本題に入るまでが割りと長い感じがした。
だからなんとなく、“一体どういう話なんだ!?”と内容自体の把握に時間がかかって(ブックカバーしてたためあらすじ読んでないし)、気が短い自分としてはそこがネックだった。
なので、しばらく読むスピードが遅かったのだが、あることをきっかけにいきなり駆け足となった。
と、ここからネタばれになるかもなので注意。



その“あるシーン”に入る前に、ざっとした話をまとめると;
主要人物は何人かいる。

まず工学部の狐塚。その彼女の月子。狐塚の同居人の恭司。
それから狐塚と同じ工学部で同じ学年の浅葱。
とりあえず彼らが主要人物と言ってよいだろう。

事の発端は、狐塚たちが通う大学にて、工学部の学部生を対象にしたコンペが開かれる。
それで一位を取ったものは副賞として、アメリカのセーラ大学に留学できることになっていた。
工学部内では、その一位を取るのは浅葱か狐塚、どちらかというと浅葱に違いない、という雰囲気になっていた。
しかし実際に取ったのは、匿名の「i」。
大学側からの何度かの呼びかけがあったのにも関わらず、結局「i」は姿を見せず、そのままこのコンペ自体も流れてしまう。

それから数年が経ち、狐塚は院生(確か)となり、月子は先生になるべくして教育実習に励んでいる。
その頃世間を賑わわせていたのが、高校生の男の子が忽然と姿をくらましてしまったということだった。両親が多額の懸賞金をかけたが、いまだ見つからず。
そこから今まで脇役っぽかった浅葱の目線となる。

なんと浅葱は、「i」とゲーム感覚で殺人を犯していたのだった。
その高校生は「i」が消し、浅葱は次に女性を殺す。そしてゲームのルールに乗っ取って、一ヶ月以内に「i」はまた人を殺すのだった。
なぜ浅葱はそんなことをするのか。
それは浅葱の生い立ちに関係しており、浅葱には「藍」という双子の兄がいた。
母子家庭で育った二人は、浅葱のみ母親から折檻を受ける。
なんとか耐えていた浅葱だが、ついに藍が母親を殺してしまい、二人は別れ別れになって、浅葱は当時酷い有様だった施設に入れられる。
そこで性的暴行を受け、トラウマを抱えた浅葱は、勉強を必死にすることで自分を守っていくことにする。
本当はのどから手が出るほど欲しかった、セーラ大学への留学。

しかし結局名乗りもしない「i」によって掻っ攫われてしまった。
そこから執念で「i」を探し回る浅葱。
ついに「i」からコンタクトがあり、何者かつきとめようとした矢先に、浅葱のパソコンは「i」によってハッキングされる。そのパソコンには、自分の過去の辛さから逃れようと、浅葱が書き綴った手記が入っていたため、真っ青になる浅葱。
それからしばらくしてまた「i」から連絡が入り、なんと「i」こそが藍だったのだ。
「i」も酷い身体的暴力を受けており、「i」の提案により“社会への報復”をゲーム感覚で行うことにしたのだった。
とここまでの下りを読んで、ふとエピローグを読み返すと、ども浅葱が「i」に追い詰められて、目を潰されるシーンっぽいのだ。はっきり浅葱とは断定されていないけれども、多分・・・・・・

そう思った途端、異様にドキドキしてしまい、浅葱のシーンになると読むのが苦しくなるほどだった。
特に、「i」の指定(二人はお互いにクイズ形式で殺す相手を指定する)によって、自分の先輩を殺すシーン。
浅葱が先輩を殺している最中に電話がなり、留守電に月子の声が入るシーンなんて本当に辛かった

 月子です。明後日に会えるの、楽しみにしています。
 抵抗の力を返してこない萩野の身体。そうするんだよ、浅葱の唇の間から呟きが洩れる。どうするんだよ、どうしたらいいんだよ。
 会えるの、楽しみにして……。
 馬乗りになった萩野の身体には、もう動きがなかった。呼吸が上下に揺らす胸の動きも、床を苦しげに叩く腕の動きも、一切がもうなかった。顔は、表情は、見ることがまだできなかった。到底向き合う覚悟などできない。
 月子。
 もう一度名前を呼んだ。顔を覆って、奥歯を噛み締める。
 どうするんだよ、もう遅い。

(p392-393)

遊びで人を殺すなんて、たとえ物語と分かっていても非常な嫌悪感を抱くものとなれども、浅葱の生い立ちなどなどを読んだ後では、浅葱だけでも助からないのかと思ってしまう。
あー 浅葱みたいなキャラに、本当に弱いんだ、私は。基本、面食いですからね

上巻の最後の方で、狐塚が月子の担当教授・秋山に呼ばれ、そこには警察の坂本がいて犯人像の意見が求められる。
なんと、「i」によってこの殺人の今までの全貌が大学内のネットワークに提示され、ついでに浅葱の手記までさらされていたのだ。

もちろん3人は、その手記が浅葱のものと知らず、むしろ嘘ではないかと思っているのだが、多分この3人で犯人を追うかもしれないとなると、余計ドキドキしてしまう。
「i」の殺し方が特に残酷であったり、色々とドキドキさせるので、精神衛生上良くないが、もう読むのが止まらない!といった感じ。
ということで下巻を読みます!!!
てか、次のターゲットってもしかして狐塚!!??


辻村深月 「子どもたちは夜と遊ぶ 上」 2008年 講談社

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