鯰って食べられるって初めて知った:池波正太郎 「剣客商売全集 第二巻」


住んでる所周辺がよく出てきて親近感がわくせいか、着々と読み進めている「剣客商売」。
相変わらず大治郎いいな。
友達が中学生の頃からはまっていると聞いて読み始めたので、割とよく出てくる男女の睦ごとシーンとか、なんだかリアルな衆道のお話とかにはびっくりした。
おませな中学生だったのね。ま、私も中学生の時に「新宿鮫」にはまってたから、あんまり人の事いえないけど。
第二巻に収録されていたのは以下の通り;

「見付宿」

ある晩に、大治郎のもとへ見知らぬ男が訪ねてきて、偶然泊まった宿より預かった伝言を伝えにくる。
大治郎が修行に出ている時に世話になった剣客・浅田忠蔵の危機を伝える内容であったので、大治郎は浜松へ向かう。
浅田忠蔵はもとは商人で、家督を弟に譲って剣術の道に進んだ。その弟も亡くなって、どうしようかということもあったが、やっぱり実家に戻る気はないと、叔父に跡を譲ったのだった。
ところが弟は、当主になりたかった叔父に殺されたと聞き、問いただしに行ったところ、叔父の前で持病の中風の発作に見舞われてしまう。

そのまま捕らわれ、牢に繋げられ、中風が悪化したがためにしゃべられなくもなり、というところに家に仕えるじいから宿の女中へ、それから大治郎へと伝わったのだった。

大治郎の父親譲りの手腕にて、助け出されるというお話。

「赤い富士」

前巻の話で、家を焼かれてしまった小兵衛は、料亭「不二楼」で厄介になっている。
そこの主人が女をタネにゆすられてしまい、小兵衛に泣きつく。
その悪者を退治してメデタシメデタシというお話。
タイトルの『赤い富士』は、小兵衛が「不二楼」にて欲しがっていた絵のタイトルで、最初は譲らなかった主人だが、この事件のお礼として小兵衛に譲ることとなる。

「陽炎の男」

久しぶりに三冬登場。

冬の家の強盗が入ろうとする。すんでのところで三冬が追い払うが、危ないということで、大治郎が泊まることとなる。
三冬の前の前あたりに住んでいたのが、盗賊の頭で、その後に住んだのがその手助けをした人だったのが関係するらしい。なんでも、盗賊の頭はその家に宝物を隠していて、死ぬ間際にその手助けをしていた人に、お礼の形見だといって、そのありかを伝えるのだった。
でもそんな事件より大事なのが、三冬がとうとう!大治郎に惚れるってことかね!!
やっとだよ~~ しかも大治郎の前だと女言葉になっちゃうところがまた可愛い。興味のなかった三冬が好きなった一話だった。

願わくは、このまま大治郎は気付かずに剣の道を突き進むってな展開がいいな。

「嘘の皮」

暴漢二人に襲われている若侍を小兵衛が助けたら、なんとその若侍は、小兵衛がまだ道場を開いていた時の弟子だった村松伊織であった。
なんともこいつは“へたれ”といった部類の奴で、偶然知り合った娘が可愛いってなもんで、一度抱いてポイ。

でもその娘というのが、本当は香具師の元締・鎌屋辰蔵の娘だったのだ。
辰蔵としては、娘といい仲になっときながらそのまま放っておくなんて許さん!という感じだし、だからといって武士の伊織がそんな娘と結婚するわけにもいかない。
うじうじしたところで、小兵衛の喝が入って、伊織は家を出て、その娘と一緒になる決心をする。

一方小兵衛は、辰蔵に会いに行き、彼を諭して娘を武家へ養女として入れ、伊織と結婚できるように取り計らう。

結局、伊織のいいように事がはこんで、私としては納得のいかなかった。辰蔵の方がずっといい人で、彼がかわいそうだった。

「兎と熊」

碁仲間の町医者の宗哲のもとへ小兵衛が訪ねて行くと、何やら宗哲は浮かない顔。
問いただしてみると、彼の一番弟子の村岡道歩の娘が誘拐されたというのだ。なんでも、毒薬を調合して欲しい、そうすれば娘を返してやると言っているらしいのだ。
小兵衛が万事を引き受けて調べてみたら、お家騒動が絡んでいるようだった。

「婚礼の夜」

大治郎が諸国を巡っていた時に立ち寄った道場の食客をしていた浅岡鉄之助が江戸にのぼってくる。
そこで訊ねた道場でも、大変その人柄が好かれ、そこに通う武士の計らいで婿養子、果ては仕官の話まで出てくる。
それに乗り切の鉄之助であったが、裏では昔、鉄之助に悪事を戒められて逆恨みをした浪人が、鉄之助を殺す算段をしていたのだった。
それを大治郎と小兵衛でやっつける、という話。

その浪人のアジトへ、大治郎は浪人のフリをしてもぐりこむのが、それがかっこよかった・・・

「深川十万坪」

金時と呼ばれるお婆さんが、悪さする侍を退治する場面に、小兵衛は行きあたる。
その侍の仕返しを心配した小兵衛は、そのお婆さんが切り盛りする酒屋に行く。はたして、その侍たちが様子を伺っているのに気付き、小兵衛は一肌脱ぐのであった。

「雷神」

かつての弟子・落合孫六が小兵衛を訪ねてきた。
昔、足軽であった時に奉公していた先より召し抱えられ、ある剣客と勝負することになった。しかし諸事情により、留守居役に金を出すからわざと負けてくれ、と頼まれる。
それを承諾してしまったので、師匠である小兵衛にお許しをもらいにと、立会人を願いに来たのだった。

はたして。その剣客は思ったより強く、というより孫六が強い者たちと練習していなかったのもあって、まったく歯が立たない。
“わざと”負けるなら致し方ないが、本当に負けてしまうと小兵衛にとっては面白くない。なんとか勝って欲しいと思い始めたその時、雷鳴が轟く。するとどうしたことが、その剣客は腰を抜かしてしまったのだった。

「箱根細工」

小兵衛と同門の剣客が重い病にかかっていることを知り、大治郎を見舞いにやる。
湯治先の箱根に行ってみると、何やら嫌な感じがする浪人が宿の周りをうろうろしている。
それを気にしつつも、見舞いとしてその剣客・横川彦五郎と箱根に逗留しているのだが、ある朝、宿を発つことになり、宿の者に聞くと、その浪人も宿を出たという。そして同じく江戸へ出発したのは商人だという。
狙いはその商人か、と大治郎が早足で行くと、まさにその通りで、すんでのところで大治郎は浪人を止める。

大治郎に討たれて死んでしまった浪人を見て、横川が言うには、彼こそが横川の息子だったのだ。
若い時分子供もその母親までも顧みずに、好き勝手に剣術に明け暮れ、息子は母親の敵として父親を討つ、という野望を抱えて成長したという。

最後は同じ宿に泊まっていたのにそれを知らず、息子は暗殺者となっており、父親は病に伏しており、という哀しい結末な一話。

「夫婦浪人」

前巻で出てきた「鬼熊酒屋」に立ち寄った小兵衛。そこでまるで夫婦のような会話をする浪人二人に出会う。
なんでも「鬼熊」の常連さんで、本当に夫婦のように二人で暮らしているのだ。

この“女”役の浪人が、まぁなんというか、いわゆる健気受けってやつでいじらしいのだ。でも様相がひどくて、ずんぐりしていて、首にいぼがあることから、「鬼熊」の客には「疣蛙」と呼ばれていたのだ。

面白半分に小兵衛が近づいてみると、その“旦那”役は紅顔の青年の敵討を助けていて、毎日ほうぼうその“敵”を一緒に探しているらしいのだ。
そしてついに敵討の夜、そうとは知らない小兵衛の元へ女役の浪人・山岸弥五七は暇乞いに訪ねてくる。
その言動に不審に思った小兵衛が後をつけてみると、弥五七もその旦那役と青年の後をつけているようである。

なんと、その旦那役が実はそんな強くないのを知っていた弥五七は、ピンチな時になんとか救うのであった。
そして大怪我をした旦那役を篤く介護するのだった。
ある日、また小兵衛は弥五七から手紙をもらう。そこにはその旦那役が急に姿を消してしまったこと、その青年の元へ行ってしまったに違いないこと、そして死後のことをよろしく、と書いてあったのだった。
慌てて小兵衛が弥五七の家に駆けつけると、腹を切って死んでいたのだった……
なんともしみじみとした話だった(おかげで長くなってしまった…)。
小兵衛が弥五七を途中で気持ち悪くなるところは現実的でよかったし、何よりも弥五七の健気さ、最後にはやせおとろえていたところが切ない。

「天魔」

ある日、気味の悪い若者が小兵衛を訪ねる。若者・笹目千代太郎の父親は、小兵衛の剣客仲間だった。
千代太郎は野山に混じりながら、父親にも習いながら剣を学ぶ。そうこうしている内に父親の手に負えなくなった。

というのは、道場に行っては試合を申し込み、相手を叩き殺していくようになったのだ。
最後に小兵衛に負けてから、忽然と姿を消してしまった千代太郎は八年ぶりに江戸に姿を現したのだった。
そうしてしばらく道場を渡り歩いては殺していたのだったが、ついに小兵衛に果たし状を送る。

さすがに八年前に勝った時よりは年をとってしまって、心配になった小兵衛は大治郎に、自分が討たれた時には大治郎に千代太郎を討つように頼む。
それに対して、大治郎は自分が先に立ち合うことを願い出て、見事に千代太郎を打ち倒すのだった。

「約束金二十両」

ある日、三冬は立て札を見つける。曰く

「御望みの方は御出向きあって、我の太刀筋を御覧あるべく候。但し、当方勝ちたるときは、立合料金三両申し受くべく候。
 雲弘流 平内太兵衛重久」

(p277)

さっそく大治郎と連れだって行くのだが、あまりの太刀筋に二人は立ち合わずにして負けてしまう。
さて平内がなぜそんなにお金が欲しいのかというと、世話になっている農民の娘との賭けに負けてしまい、二十両が必要になったからであった。
小兵衛はさっそく訪ねて行き、まず太刀筋のみ見る。それからまた出向き、立合いを求める。結果は;

「鋭!!」
「応!!」
 二人の老剣客が発した気合声に、筵の上の赤猫が三尺も飛びあがり、落ちたときには目をまわしていた。
 片ひざをついた小兵衛が抜きはなった波平安国の脇差は、太兵衛の胸もとを下から突きつらぬくかたちとなり、しかも、その切先は約一寸を残し、制止している。
 いっぽう、太兵衛は、宙を飛んで来た小兵衛の大刀を両手につかみ、ほとんど鍔元近い刃先を、小兵衛の脳天すれすれにぴたりと止めていた。
 二人の体勢は、入れ替わっていた。
 そのままの姿勢で、二人とも、しばらくはうごかぬ。
 午後の日ざしが明るくみちわたる前庭の静寂[しじま]を破って、どこかで、するどく鵙が鳴いた。

(p294)

といった調子で、相討ちであった。
まだ平内氏の素性は不明だし、思わせぶりな感じなので、また出てきそうな登場人物である。

「鰻坊主」

大治郎が珍しいことに「鬼熊」に行ってお酒を飲んでいると、変わった詐欺師に会う。
手口はこんな感じ。まず旅僧(詐欺師)がやってきて、五十両を拾った、落とし主を知らないか聞く。それを聞いていた浪人は出て行って、仲間の浪人を「鬼熊」にやらせて、その五十両こそが自分を落としたものだ、といって礼金(拾い金の十分の一が礼金というのが当時の常識だったそうな)を旅僧に渡す。
あとから五十両はよくできた偽物で、あわてて取って返しても旅僧はもういない、という手順なのだ。

実は、大治郎は大阪にいたころ、まったく同じ旅僧に会ったことがあって、それに気付いた。
それを小兵衛に話し、流れでその旅僧をだまされた浪人から助けることになる。
身の上を聞くと、元は武士で、兄の敵討のため旅に出ることになった。しかし敵を討つ気にどうしてもならない。なぜなら兄こそが悪かったのだ。
だから悪者を騙しつつ、路銀を稼いで放浪するようになったというのだった。

「突発」

腕のいい煙管師・友五郎は病に伏せっていた。本当は軽い病であるのに、町医者・山口幸庵が友五郎の妻と一緒になりたいがばかりに、“死の病である”と偽って囁き続けていたので、病は気からと言う通り、友五郎は床から起きられない状態にいたのだった。
ある時不慮の事故といった感じで、幸庵は殺されてしまう。そこへ丁度居合わせた小兵衛は、めぐりめぐって幸庵と友五郎の妻の、友五郎の仕打ちを知る。
友五郎を病から救い、その妻に出て行くように促す。

「老僧狂乱」

大治郎は諸国を旅していた時に世話になった和尚が、身投げしようとしているところで出くわす。なんでも寄進のために集めたお金を盗まれてしまったというのだ。
息子が世話になったから、といって小兵衛は百両を用意するのだが、和尚はそのお金をもって忽然と姿を隠してしまう。
実は、和尚は娘に入れあげてしまい、それをもって強請られていたのだった。
小兵衛と大治郎はその悪党をやっつけるのだが、その最中、和尚は死んでしまう。

池波正太郎 「剣客商売全集 第二巻」 1992年 新潮社

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