フィリップ・マーローものを読もう読もうと思いつつ未読:荻原浩 「ハードボイルド・エッグ」


旅行に行く際に買った本の一冊(残りは先の「阪急電車」と未読の「葉桜の季節に君を想うということ」)。
私が一気に何冊も本を買うのは珍しいのだが(何せ普段は図書館派)、飛行機のストップオーバーで5時間もあるというのに、手荷物には幸田文の本一冊のみ。もう一冊長いのも持ってたのに、うっかりトランクに入れてしまったという失態を犯してしまったのだ。
それで慌てて本屋に駆け込んだのだが、「阪急電車」を選んだのはその項で書いた通り。
残りの2冊は、マイミクさんが面白いと言っていたり、読書会で紹介された本のつもりだったのだが・・・
後で知ったのが「ハードボイルド・エッグ」は間違えで、同じ著者の「神様の一言」が正解だった。
ま でもこれも面白かったからよしとする。
というか荻原浩、前に読んだ2作も面白かったからフォローしてみよっかなと思った。

さてさて肝心な中身はというと。
主人公はフィリップ・マーローを敬愛して、ついに探偵業まで開いてしまった「私」こと最上俊平(あまり名前は出てこないけど)。
勢い込んでサラリーマンを辞めて探偵になったはいいけれど、実際にやっていることといったらペット探し。
それなのにフィリップ・マーローぶってるもんだから、依頼人には「あなた……ちょっと喋り方がヘンよ」(p14)と言われる始末。
というか、ずっと「私」が語っている口調だから、ペット捜査のはずがやけにハードボイルドで笑える。
例えばこんな感じ;

 ガルシアの行方は杳として知られなかった。春とは思えない狂ったような暑さの中で、私は夕刻までアスファルトを舐めるようにしてガルシアの姿を追い求めたが、コットンシャツに汗じみをつくったほかには、状況は何も進展しなかった。ガルシアは、コロンビア生まれ。冷血。百四十センチ。三歳。オス。いうまでもなく、イグアナの名前だ。

(p14)

ある意味ドンキホーテ的滑稽さだが、こちらは自分のことはまぁ分かっていて、自虐ネタにしてる節も時々あるから、そこまでイタくはないから、最後まで読めた。
そんな迷調子でいくのだが、ある時それをかき乱す人がやってくる。
それが、「私」がよこしまな思いから募集した秘書としてやってきた80過ぎのおばあさん。
この人がまったくハードボイルドを理解してなくて(何せ、ハードボイルドをリアルなゆで卵だと思っている)、主人公がハードボイルドチックに酔いしれた時に、小気味良いくらいばっさり切り捨ててくれる。

そんなコンビが、捨て犬などを引き取っている夫婦に、やむなく犬を預けるところから話が本格的に始まる。
預けた次の日に犬が脱走した、というので駆けつけてみると、その家の近くで奥さんの父親の死体を見つけてしまう。
なんでも犬にかまれたらしい。
でも歯形からしてその犬ではないはずだが、警察はそんなのを分かっちゃくれない。
ということで、主人公とおばあさんは犬を探すことになるのだった。
正直犯人もすぐ分かっちゃったけれども、この迷文調といい、どたばたコンビといい、十分楽しめる一冊だった。


荻原浩 「ハードボイルド・エッグ」 2002年 双葉社

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