とりあえずぬいが最終巻まで生きていたのでホッ:住井すゑ 「橋のない川(七)」


ついに終わってしまった「橋のない川」。
正直シリーズの後半はいわゆる“小説”ではない気がしないでもなかったけれども、終わってしまうと寂しい。

何よりも七巻が終わったときには住井すゑさんは、まだまだ書くつもりでいたのがもっと惜しい。
というのは、非常に面白くなりそうなところで終わっているからだ。
本書もひたすら水平社の運動について描かれている。

それと同時に主となっているのが、難波大介の皇太子暗殺未遂の罪状で死刑となっていくのを通して、新聞(マスコミ、世間)が真実を語らない、というテーマ。

孝二のキャラが薄くなってしまったり(というか孝二があまりにできすぎ)、秀坊があまりに神がかりすぎていたり、善と悪があまりに明確すぎる(所謂部落や農家の人が善、政府や金持ちは悪という図式があまりにくっきりしすぎ)など、それはどうなの?と思わざるをえないところもあるが、久しぶりに面白いと思えた巻だった。

それは水平社ができたことによっての人々の変化が顕著になってきたから、というのと、時代も大正が終わり昭和に入ったからかもしれない。さて第二次世界大戦はどうなる?という期待を持たせて終わってしまって、本当に残念だった。
朝鮮人で、しかも朝鮮のエタにあたる『白丁(びゃくちょう)』である朴さんが

世の中のどこがどう間違うてるかということは、世の中で一番どん底で苦しんだ者でないと、わからぬのとちがいまっしゃろか。そうかて“ど突かれて痛かろう。”と周囲から想うのと、“ど突かれて痛い。”とわが肉(み)で感じるのとではわけがちがいますもんなア。

(p102)

という言葉は、それこそ耳に“痛い”けれども、「橋のない川」を読むことで、誠太郎や孝二を身近に感じるという体験を通して、ちょっとは“わが肉で感じ”られた気がする。
そういう意味で、「橋のない川」を読んだことは自分にとって大きな遺産になったと思う。
とここまで書いてから気づいたが、私、六巻読んでません!!!!

ぎゃああああああああ
五巻の感想を読んだら、“残り1巻!”と言っていて、でも今このレビューを書いているのは七巻。
はて六巻は・・・?と調べてみたら。。。
とほほ。
道理で七重がいつのまにか結婚してたはずだよ。
ま、でも「橋のない川」ってこれまでも“いつのまにか”が多かったからさ。
言い訳しつつも何気にショック。
なんだか感傷的に書いたレビューも今となっては笑い種だけど、それが本書を読み終わった時の正直な感想なんだし、せっかくなのでこのままにします・・・


住井すゑ 「橋のない川(七)」 平成6年 新潮社

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