タトゥーがいいアクセントになっていたな:荻原浩 「神様からひと言」


mixiの日記にて、我がマイミクさんが面白かった本、というので挙げていらしたのが「神様からひと言」だった。
それを間違えて読んだのが「ハードボイルド・エッグ」
奇しくも、どちらも日本を離れる時に読むことになった。
最後の主人公が選ぶ選択は、ちょっとできすぎなような気がしないでもなかったけれど、後は概ね面白かった。
何しろうまい。
とにかく荻原浩氏の作品を読むと、「うまいよなぁ~」と思ってしまう(ってそんな読んだわけじゃないけど)。
まず筆致が軽やかなので読みやすい。

でも今回の作品の内容からして、一風変わったキャラが沢山出てくるし、何せクレーム処理班の話だし、ということでどこまでもコミカルに出来る要素が備わっているのに、そこまでコミカルじゃない。
だってよく考えたら、キャラはその置かれた境遇によって精神を病んでいるんだし(その上での変人だし)、クレームの対処の仕方がおかしい、という題材だしで、徹底的にコメディーにしてはいけないのだ。
その緩急の締め具合が絶妙としか言いようがない。
ざっとしたあらすじを書くと…

主人公の佐倉涼平は、大手広告代理店をけんかにより辞めてしまい、成り行きでインスタントラーメンを主に取り扱う“珠川食品”に再就職する。
ところがそこでも、大事な会議の席で上司とけんかをしてしまう。
そこで左遷された先が、リストラ要員収容所と言われる「お客様相談室」。
そこにいるのは変人ばかり。
つめ磨きばかりしているいけすかない室長の本間。
強面だが、精神を病んでいて口がきけない神保。
挙動不審な山内(すぐ血を吐いて辞職する)。
小太りでネットばかり覗いている、実は若い羽沢。
涼平の後に入ってくるのだが、元秘書課の美人だけど底の見えない、宍戸。
そして誰よりも曲者なのが、「お客様相談室」が長いのにしぶとく残っているゴキブリのような男、篠崎。

篠崎の後をついて学んでいくのだが、この篠崎っていう男は大のギャンブル好き。
いつも遅刻してくるのも、お金がないのも、離婚されそうなのも、すべてギャンブルのせい。
それなのに、クレームの電話を回せば一転して“できる男”になるのだ。
謝るのにかけては天下一品。嘘も織り交ぜながらサラサラとしゃべるだけでなく、大嫌いな室長に不利なるよな意地悪も忘れない。

中でも篠崎が涼平にクレーム対処のポイントみたいのを教えるところが面白かった;
「確かに電話でうちゃくちゃなことを言う客もいるし、いきなり怒鳴りつけてくるやつもいるけど、こっちはあくまでも冷静でなくちゃ。適当に聞き流して、頭の中で歌でも歌ってればいい。北島三郎とかいいよ。何を聞いてもヘイヘイホー。童話なんかもいいな。軍艦マーチはだめ。攻撃的になっちゃうから」

(p136-137)

なんか“ヘイヘイホー”が妙にツボでした。
そんな「お客様相談室」にいながら、段々と涼平は珠川食品のおかしな所に気づいてくる。
こんなにクレームが多いのに、そしてクレームの中身はもっともな事も多いのに、まったく改善されることがない。
『お客様の声は、神様のひと言』とうたっている割には、一向に反映されていないのだ。
親族会社の弊害かと思いきや、それだけでなく陰謀(というか私情?)が絡んでいることが分かってきて…
といった内容と、出て行ってしまった恋人を探す話を、うまく絡ませながら話が進んでいく。
最後に悪事を暴くのはいいけど、すっぱり仕事も辞めて、でも未来があって、ついでに恋人も見つける、というのは出来すぎている気がしないでもないけど、まぁ それはそれでよしとしよう。
飛行機でみた「誘拐ラプソディー」も面白かったから、次はそれだな


荻原浩 「神様からひと言」 2005年 光文社

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