「のぼうの城」と「小太郎の左腕」のみ買ってる時点で、完全にジャケ買い:和田竜 「小太郎の左腕」


発売後すぐに買ったというのにずっと積ん読本にしてしまった「小太郎の左腕」。
でも読み始めたが最後、1日で読み終わってしまった。
時はまたしても戦国時代。
「のぼうの城」よりもエンターテイメント性が増していたんじゃないかという読みやすさだった。
少年漫画のようなスピードと、キャラクタが出てきて、もう全く時代小説の枠を超えている。
戦国時代といっても織田信長が活躍する前の戦国時代。
舞台となるのは多分九州の戸沢家。そしてタイトルになっている小太郎というのは、その領内に住む11歳の少年。
と言っても主人公はこの小太郎というよりも、戸沢家の猛者林半右衛門と言っていいだろう。
話の内容をざっとこんな感じ。


林半右衛門は功名取りと言われるくらいの猛者である。
戸沢家に仕えているのだが、その戸沢家は児玉家と対立することとなる。
その児玉家にも半右衛門と匹敵するような猛者・花房喜兵衛がいる。
お互いよきライバルとして認識し合うのだが、半衛門をはじめとした戸沢家は敗北してしまう。
その逃げる最中、小太郎とその祖父の家で厄介になったのがきっかけで、小太郎と半右衛門は知り合う。

その後、小太郎の望み通り城で行われる鉄砲大会に出場させてあげるのだが、そこで小太郎の神の左腕が披露されてしまうことになる。
農繁期が終わり、再び児玉家と争うことになった戸沢家は籠城を決意する。
そしてにっちもさっちもいかなくなった時、小太郎を呼び寄せようと決まるのだった。

半右衛門は、小太郎の純真さ―普通の人間ではなかなかいないくらいの純真さ―を知っているので、なんとかしてこれを止めようとするのだが、籠城もピークを迎え、自分の部下たちが人を食べているのを見た時、小太郎をこちらの世界に引き込むことを決意する。
そして引き込むために、祖父を殺し、小太郎には児玉家がやったと教えるのだった…

この後、半右衛門の苦悩が始まり、そのままラストへと向かうのだが、これで分かるように完全に半衛門のお話である。
半右衛門というこれまたまっすぐな性根の豪傑が、純真で優秀な殺人マシーンに出会ってしまう。なんとか殺人マシーンにしないように頑張るが、最終的には状況に負けてしまい引きずりこんでしまい、勝利を得ることは得るが自分の精神が壊れてしまう。その後再生し、更に人間味が深まるのだが、最後には自分が創ってしまった殺人マシーンと対峙する…といったら、なんか映画とか漫画にありそうな話じゃない?

こんな話が時代小説としてある、というのが和田竜という作家の斬新さだろうけど、やっぱり「のぼうの城」で受けた衝撃は薄れた気がしないでもない。時代小説という枠を外してしまったら、ありきたりの話になってしまうのだが残念なところだ。

それでも一日で読み切れるくらいのスピード感と満足感は得られたのだから、エンターテイメント小説としては合格点だろう。


和田竜 「小太郎の左腕」 2009年 小学館

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